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サガミ

『ええー! なんでぇ?』

 ギチギチギチと苛ついた音を立てていたが音がやんだ。


『ねぇミウラ、あなたねぇ、どの(ツラ)下げてこの地を走ってるのかしら?』 

 おねえ言葉だ。


 声が太い。立てよ国民の銀河な人っぽい声。あのギザギザしたメカっぽい口でどうやったのか、ちゃんとした言葉を喋った。そしてお怒りである。


『いえ、その、だって今まで良くしてくれていたじゃありませんか! わたしはサガミ様と敵対する意志も持ってないし、利益もありません! これまで通りよろしくお願いしますよ! ってかどうしてしまったんですか?』

『あなた、イズの地を取ったでしょ? アタシを挟撃できる位置取りをしたでしょ? これをアタシへの攻撃と見ずして何と見るの? いまさら言い逃れはできないわよッ!』

『どうして!? イズさんはもともとサガミのヌシ様を狙ってたのですよ!』

 ミウラとしては、助太刀をしたつもりだった。


「待てミウラ!」

 背中にしがみついたイオタは、姿を隠したまま小声でミウラに耳打ちした。


「イズはお主の物となった。東のミウラ半島。サガミ湾を挟んでイズ半島。この挟まれた平野がサガミのヌシの支配地域であろう? お主、ヌシは自分の支配地域内なら瞬間移動ができると言ったな。イズのヌシという大物を倒せる力を持ったミウラに左右を挟まれたサガミのヌシは気が気でなかろう。そして今向かってるのは北の大物ヌシ」

『三点を確保してしまいました! 包囲殲滅戦の様相でございまするか?』

「そう言うことでござる。戦いは回避できぬぞ!」

『うわぁー……、でもしかし、見て解るように、わたしとサガミさんでは体格が子供と大人。ましてやサガミさんは大物のヌシ。わたしは小物のヌシのさらに弱い方で下ヌシなんです。なんとかして誤解を解く以外生き延びる方法はありませんよ!』

「ミウラよ、ならばサガミを見よ」


 サガミのヌシは背甲を開いた。中に小さなサガミのヌシが4匹も準備体操している。小さいと言っても戦車より大きい。

 これはマズイ! ミウラは接近戦&格闘戦を苦手とする。いわゆる魔法系のヌシなのだから。あの小さく凶暴な怪物に飛びかかられ、懐に入られたら万事休す。この時点で負け決定だ!


「腹をくくれ! 敵わぬとも某が助太刀いたす」

『し、仕方ないのですね!』

 ミウラも四肢をたわめ、跳びはねる力を溜めた。


「背中は任せよ! 本体以外、目もくれるな!」

『イオタの旦那がそう言うなら。腹くくりました! 死ぬ時は一緒ですよ。先手必勝!』

 ザッと地を蹴りサガミに迫るミウラ。


『子供達よ、お行きなさい!』

 サガミは背より子サガミを射出した! 重ねて言うが、野太いオネエ言葉で叫ぶ!

 子サガミの着地点は、ミウラの背中だ。上空、四方より襲いかかってくる!


「させるか!」

 イオタが背より立ち上がる。同時に跳躍、抜刀!


 迫る子サガミのうち、二匹とすれ違い様に銀光を走らせる!

 金属同士をこすり合わせる音。子サガミが真っ二つになって黄色いミソをぶちまけつつ落下する光景!

 イオタは遠く、サガミの足下に着地。残り2匹の子サガミはミウラの背中に着地。

 イオタの姿が消えた。加速のスキルだ!


 サガミの足下に大きな殺気。サガミは条件反射で前脚の1対を体と殺気の間に割り込ませた。

 耳障りな金属音が立つ。

 サガミの前脚は盾にもなっている。装甲板のような殻が裂け、中から黄色い汁がこぼれ出た。


『あんた、だれ?!』

 サガミはイオタを知らない。完全な奇襲。


 ミウラは背中に取り付いた子サガミを全く気にせず、雷撃に神経を集中させた。

 イオタが子サガミと本体前脚を斬った、その事実を目にし、不可解な自信が体を巡るっていることに気づいた。


『あ、いける!』

 天啓だったのかも知れない。あんなに強大だったサガミが弱い生き物に見えたのだ。


『今なら出せる!』

 ヌシの力を集約、増幅、展開、発動! それはミウラが前世で得意としていた魔法の構築に似ていた。


光雷砲(ライトニングアタック)!』


 ミウラの前面に青白い光の玉が4つ出現。白い光が光球とサガミのヌシを繋ぐ。

 サガミのヌシに繋がってる部分は8本の足。その8本の足全てがなぎ払われた。


 ごろりと転がる胴体。

『ば、ばかな! なぜミウラ程度のヌシにこれほどまでの損害を受ける? アタシは上ヌシよ!?』

 顔をくるりとこちらに向け、赤い目の光を瞬かせるサガミのヌシ。それは恐怖の表現だ。


「なかなかどうしてどうして、強いじゃないかミウラ」

 ぱちりと刀を収めるイオタ。いつの間にかミウラの背に戻っている。ずっと後ろの方では、バラバラになった子サガミが蟹味噌をブチ撒きながら地面に落下していた。


『なぜかしらできる気がしたらできた。妙に強くなってるんですよね?』

 ミウラは首をかしげている。

 そこに隙があった。


『子供達よ!』

 サガミの腹が割れ、子サガミが4匹飛び出した。


『いまならできる、もう怖くない。雷回廊(サンダーロアー)!』

 ミウラからサガミのヌシに向かって、雷の回廊ができた。道はサガミを抜けて後方へ。道の両脇に街路樹のように、電信柱のように、街灯のように、落雷で柱が作られる。

 子サガミは、はじき飛ばされ黒こげになって破裂した。


『ミ――』

 サガミは物言う暇もなく、炭素化して長かったであろう生涯を閉じた。

 死んだヌシは消える。イズのように、サガミも蒸気となって消えてしまった。


「むっ!」

『うっく!』

 イオタとミウラに膨大な情報が流れ込む。それは膨大な地図情報。サガミから支配領域を引き継いだ証。

 しばしの酩酊状態から立ち直る2匹。2匹同時に「ふぅ」と息を吐く。


「ミウラよ、イズに止まらず、サガミまで落としてしもうたぞ。おぬし、やっぱり強いんじゃないか?」

 日本で言うところの伊豆半島と神奈川県を手に入れてしまったのだ。ささやかな領土どころではない広さを保有するヌシとなった。戦国時代なら国持ちの大名である。……ヌシは、人の住まぬ厳しい地だけを好んで領土とするが、支配力は国中に及ぶ。ややこしいが。


『信じられない! おかしい! どう考えてもおかしい! 勝てる相手どころか戦いになる相手じゃなかったのに!』

 ミウラは興奮していた。むしろ狼狽えている。何時もは沈着冷静で斜めに構えているミウラがだ。


「落ち着けミウラ! 何がおかしい? 我らはこれまで負け無しであったろう!?」

 イオタがなだめる。イオタとミウラのコンビはイセカイで無敵だった。ならばこの世界でも良いところ行ってるはずだ。とイオタは思っている。


『この世界でわたしは弱いんです! 仮にもサガミのヌシさんは上ヌシ。わたしは下ヌシ。しかも下ヌシのなかの下の方。イズを取ったからといって急激に強くなるルール……、(ことわり)はありません。とてもじゃありませんが、上ヌシに勝てないですよ! 体だって小さいし』

「それを言うなら某も。あの堅い甲羅が相手ござる。今でも手が痺れ……痺れておらんな? もう治ったか? さすがヌシの体でござる! もとい、親は大きすぎて切断に及ばなかったが、小さな子は斬れた。某って強すぎないか?」

 イオタは自分の手を表裏と返しながら眺めている。


『変なんですよね。変。あの2つの技は、理論だけ完成させてましたが、実際は出力不足で使えなかったんですよねー』

 どうやらミウラは落ち着いたようだ。


「ミウラの言う先輩ヌシは、諸々含めその辺のこと知らぬかな?」

『そうですね。古いお方で知恵者ですから。いの一番に聞いてみましょう』

 

 

 こうして、ミウラとイオタは、北へ向かって走り出した。

 

 

 

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