天才小学生は帝国軍を一蹴すると『チェックメイト』と不敵に微笑む
天才小学生であるケンイチは、しかし、学校ではいじめの対象だった。
毎日のように缶コーヒーを買いに行かされ、ランドセルを隠され、やっと見つけたと思えば中に入っていたえんぴつがぼきぼきに折られている、という毎日を送っていた。
今日もケンイチは体育祭で屋根裏のような体育館の準備室に閉じ込められた。誰も助けに来てくれず日が暮れていった。
天窓から見える星座を一人寂しく見上げながら量子力学における並列世界の可能性を考えていると、突然周囲の空間が歪み、気づくとケンイチは夏祭りの矢倉のような物の上に横たわっていた。呆然とする彼に一人の少女が言った。
『勇者様。どうかこの国をお助けください』
「撃てぇ!」
ケンイチの号令の元、サンフラワー皇国の農民兵の魔法銃が火を噴いた。少し間を置いて進軍してきた帝国騎士達がバタバタと倒れて行く。
「すごい! 超硬度で魔法無効化特性を持つオリハルコン製の甲冑を身につけた無敵の帝国騎士があんなに簡単に倒れていく」
「炎熱術式を利用した成形炸薬弾だよ。魔法で弾頭を高熱のジェットガスにしてオリハルコンを貫通するのさ。呪文を2枚のお札に分割して、弾が当った衝撃でお札が重なる事で呪文が発動するようにしている。かのリトルボーイの起爆方式をパクった」
「セ、セイケイ……
ジェ、ジェットガス……
リトルボーイですか……
ああ、私のバカ、バカ、バカ!」
ピーチャ姫は自分の頭をポカポカと殴り、ケンイチに頭を下げた。
「折角説明いただいたのに私、ちっとも理解できません。申し訳ありません。あの……、後でお時間をいただいてゆっくり教えていただけませんか?」
「あ、いいよ。そういうの慣れてるから」
「いえ、私、ケンイチ様の言われる事を理解したいのです。ご面倒とは思いますが是非お願い申します」
姫の懇願に、ケンイチはうん、頷く。そして、召喚されて本当に良かったと思った。ポーカーフェイスもどきの表情で全く僕を理解しようとしない連中ばかりの世界。それに比べ、ここには理解しようとしてくれる君がいる、とケンイチは胸が熱くなる。
ピーチャ、君が望むなら世界だって手に入れて見せるよ
「だけど、その前に目の前の敵を蹴散らそう」
「えっ? なんの前ですって?」
「ふふ、それも後で教えてあげる。
良し! 戦車前進」
後方から土煙を上げながら巨大な鉄の塊が敵陣に雪崩れ込んでいく。
「チェックメイトだ」
崩壊する敵を前に天才少年は不敵に微笑むのだった。
2022/12/18 初稿