#6
エイクがカフェから出て、帰宅しようとしていると、キャンパスから出てきた西小路にばったり出会った。エイクは諦めていたところで西小路に会ったことにより、嬉しさのあまり、一瞬硬直していた。しかし、すぐに我に戻り、彼に声を掛けた。
「あ、あの、西小路君!」
「やぁ、エイク君。どうしたの?」
「あのっ、これ! 本屋でたまたま見つけて。それで、君に渡したくて・・・・・・」
エイクは鞄から本を取り出し、西小路に手渡す。
「これは・・・・・・古代和字総覧じゃないか! これを僕に?」
「う、うん・・・・・・迷惑じゃなければ受け取ってもらえないかな・・・・・・?」
西小路は目を丸くして驚いていた。次の休日にでも探しに行こうと思っていた物を、エイクがわざわざ自分の為に買ってくれていたのだから。
「迷惑なもんか! ありがとう、エイク君!」
西小路はエイクから本を受け取り、両手でエイクの手を力強く握って、満面の笑顔で彼に感謝を伝える。西小路はよほど嬉しいのか、握手している腕をブンブンと振っている。エイクは西小路から急に握手され、顔を真っ赤にしていた。
西小路は握手の手を大きく振っていた為、そのせいでエイクの袖が捲れ、彼の濃い腕の毛がちらりと見えた。西小路は「あれ?」という顔でエイクの腕を注視した。以前彼を助けた時はスベスベの肌だったからだ。エイクは自分の腕に向けられた視線に気付いて、握られた手をほどき、恥ずかしそうに腕を後ろに隠した。
そこに紅葉もキャンパスから出てきた。西小路とエイクが話しているのに気付き、二人のところにやってきた。
「あら、エイクさん」
「紅葉ちゃん、これエイク君から貰ったんだ!」
西小路は興奮気味で、紅葉に貰った本を見せた。
「古代・・・・・・和字、総覧・・・・・・ですか?」
「もしかしたら論文の題材になるかもしれないって・・・・・・って、エイク君?」
西小路がエイクの居た方を向くと、そこにエイクはおらず、少し後ろに下がっていた。
「じゃ、じゃあ!」
そう言って軽く会釈をして足早に去っていくエイク。そこから少し離れたところで振り返ると、エイクの目には西小路と紅葉はお似合いのカップルに見えた。エイクの胸がズキッと痛んだ。