#2
それからエイクは箕面市 小野原にある邸宅で、八十代くらいの上品な老婦人の肖像画を描いていた。現在の婦人ではなく、彼女が若かりし時の写真を見て、それを絵にしていた。
老婦人は椅子に座り、バラの刺繍のパッチワークをしていた。エイクが絵を描く姿を見て穏やかな口調で、
「エイクさん、何かいいことがあったのね」
「え?」
「いつもは淡々と描いているのに、今日は表情も柔らかくて。なんだか嬉しそうだわ」
老婦人が柔らかな笑顔でエイクに微笑みかける。
「そうですか?」
「えぇ、なんだか、恋をしているみたいな」
「そ、そんな・・・・・・恋だなんて・・・・・・」
「青春ね・・・・・・ウフフフ」
エイクは西小路の顔が脳裏によぎり、顔を赤らめる。そんな彼を見て優しく笑う彼女に、話の矛先を自分から変えようと、
「お、おばあちゃんは・・・・・・どんな恋をしてきたの?」
エイクは老婦人に尋ねる。
「まぁ、エイクさんったら」
「お、おばあちゃんが先に言ってきたから・・・・・・」
「ウフフフ・・・・・・そうね」
老婦人は刺繍をテーブルに置き、老眼鏡を外す。そして目を閉じて、昔の記憶を辿りながら、懐かしむようにゆっくりと話し始めた。