#9
それから一時間後、ところ変わって箕面市 今宮三丁目のとある年季の入ったアパート前。
「今日は本当にお世話になりました。それで依頼の報酬の件なのですが、事務所をお探しでしたよね?」
「え?」
目の前のアパート内に、二人は紅葉から案内され、四階の部屋の前までやってきた。紅葉は部屋の鍵を開けて、二人を部屋の中に招く。
「こちらの408号室なんですが、ちょうど空いておりまして。もし西小路さん達がよろしければ、この部屋を無償でお貸しいたしますが・・・・・・」
紅葉の話によると自分の父親が所有管理している建物だそうで、今回のお礼にと彼女の父親も了承しているとの事。そして紅葉はその空き部屋を事務所にしたら良いのではないかと提案してきたのだ。念願の事務所に西小路はガッツポーズをして喜んだ。
「本当に⁉ ありがとう紅葉ちゃん! ・・・・・・あっ、小野原さん」
「喜んでもらえて、こちらも嬉しく思いますわ。それと、私の事は紅葉と呼んで下さい」
「ありがとう、紅葉ちゃん。それじゃあ、この部屋は僕たちの探偵事務所だね。これから二人三脚で頑張ろう、かやのちゃん! やる事が色々あるなぁ。掃除してから内装・・・・・・あ、家具選びに行かなきゃだね! それに事務所の名前を決めたり、チラシ作り―――」
かやのに西小路は嬉しそうな声でこれからの事を話しかけていた。しかし、話の途中でかやのが割り込んだ。
「あー、そういや言い忘れてたけど。昨日食ったバーガー屋の面接受かったから、明日から俺そこで働くわ」
「・・・・・・・・・はい? ・・・・・・いま、なんて?」
「だからー、俺昨日のバーガー屋で働くわ」
「・・・・・・ええぇぇぇぇぇぇぇ‼ いやいやいやいやいや! 事務所はどうすんのさ⁉ 二人で頑張るんじゃなかったの⁉」
「俺は探偵をやるとは一言も言ってねぇ。でもまー、どうしてもっつーなら、暇な時に気が向いたら手伝ってやるよ」
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ‼」
西小路の悲痛な叫びが夕暮れにこだました。