#1
早朝の千里北公園。微かに朝霧が掛かって、気持ちの良い空気が流れている。前回の戦いで大怪我を負ったかやのが、所々包帯を巻いた姿でベンチに腰かけ、森林浴をしている。
かやのの膝の上にはリスが乗っており、気持ち良さそうに彼女から撫でられていた。そこに野良犬や野良猫、ネズミが草陰から現れてすり寄ってくる。また、鳩や鴉、雀などの野鳥も彼女のもとに集まり、羽を休める。そこは弱肉強食の関係などは無いように、動物達が仲良く寄り添っていた。
同時刻、桜井幸隆が息を切らしながら、もっさりした足運びでジョギングをしている。彼は妹の桃音に言われ、運動不足解消を兼ねて気分転換で、千里北公園内を走っていた。
「ハァ・・・・・・ハァ・・・・・・ヒィ・・・・・・体が重いでゴザル。・・・・・・おや、あれは?」
ふと視界に何かが映った幸隆は、その何かの方に目を向ける。そこには沢山の野生動物や野良になった動物達に囲まれ、幸せそうにモフるかやのがいた。頭に鳩が乗っている。
「あの子は確か・・・・・・かやのさん?」
大学院工学研究科の研究室。幸隆は動物語 翻訳機の開発チームに所属している。彼はウェルシュ・コーギーの首輪に翻訳機の送信器を取り付け、自身は受信機を持って実験をしていた。犬に玩具で遊ばせ、おやつも与える。その時に犬が発する鳴き声で受信される言葉を確認しながら、実験データを作成する。鳴き声の周波数がパソコンに映し出される。
そこに紅葉がやってきた。彼女の家の企業『小野原ホールディングス』は犬と猫の翻訳機『アニーゴ』を商品販売しており、その改良の為に大学院の開発チームと次世代アニーゴの共同開発をしていた。また全面的に資金援助をしており、スポンサーでもあった。
「こんにちは、桜井先輩。研究の方はいかがですか?」
紅葉は自社の製品と共同開発しているチームの中に、幸隆の名前があったのを知り、彼の様子を見に来たのだった。
幸隆によると、「クゥーン」や「ワフッ」等のはっきりとしていない発音のものは解析不能と表示されるという。また、しっかりした発音のものでも、解析不能と表示されたりするらしい。彼はそういったバグの調整や修正を任されているので、膨大なデータ量と難航する作業に頭を抱えていた。
「こんな時、拙者が動物の言葉が理解出来て、自由に意思疎通がとれたら、どんなに楽か」
「そうですわね・・・・・・こんな時にかやのさんがいてくれたら・・・・・・」
大きく溜め息をつきながらぼやく幸隆に、紅葉から気になる人物の名前が飛び出た。
「え? かやのさん?」
「えぇ、以前ペットの石丸さんが迷子になってしまった時に、お猿さんと会話して探してくれた事がありまして・・・・・・」
「彼女は動物と話せるでゴザルか?」
「定かではございませんが、少なくともあの時はお話ししているように見えましたわ」
ふと、幸隆の脳裏に今朝の公園での光景が浮かんだ。