#9
「稲壱、どいてろぉぉぉ‼」
瀕死とは思えないかやのの力強い言葉に、稲壱は怪物から離れた。かやのは大きく跳躍し、空中で左の拳を構える。そして彼女の鋭い視線の先にある、頑強な扉に破壊の拳、寸拳を打つ。パァァァァァン‼ と金属に当てたと思えぬ、破裂音に似た衝突音と共に、分厚い金庫の扉を破壊した。
中から闇のように禍々しい憎悪の怨念が溢れ出る。
『ほホッ‼ ホホホほアァァァァアアアァァァアアアアァァァァ‼』
扉を破られた怪物は笑いとノイズの入り混じった絶叫を上げた。かやのは寸拳を放った直後に
力尽き意識を失う。受け身が取れず、地面に叩きつけられる寸前で、稲壱によって受け止められた。
そしてかやのが命懸けで作ってくれたチャンスを逃すものかと、ワイヤーを操り、金庫内の元凶を縛り引き寄せる。出てきたのは顔の一部がひび割れた市松人形だった。
この世の物とは思えない恐ろしい形相をしており、縛られて動けない手足の代わりに、目をギョロギョロと動かしながら『ホホッ‼ ほホホほホ‼』と狂ったように無機質な笑い声を上げている。
西小路はその市松人形の姿にビクッとなり、つい放り投げそうになったが、グッと堪えた。そして顔を逸らしながらポケットに入れていた勝守の中の札を取り出し、人形の顔に貼り、腕に付けていた魔除けの数珠で人形をグルグル巻きにして封印する。すると人形は静かになった。それと同時に音を立てて怪物だった物が崩れ去った。
その後、西小路は市松人形を持って勝尾寺に向かい『呪われた人形』として和尚に渡した。和尚は人形から強い怨念を感じると言い、数十年単位で供養して恨みを少しずつ散らしていくと説明をした。