#8
混じっていた声の主が、探していた石丸のものだと感知した紅葉は声のした方を指差す。その指差された方向に、西小路が彼女の手を引きながら進む。
目的の声が近づくにつれ、葉の音ではないガサガサ音、そして鎖のような音が聞こえてきた。目の前の藪をかき分けたと同時に猿の群れに囲まれた狸のような生物を発見した。
二人がソレを発見するのと同時に、頭上の木から飛び降りてきた猿達とかやの。
「石丸さん‼」
「かやのちゃん⁉ ・・・・・・というか、石丸さんってその子?」
「よお。さっき猿共から聞いたんだが・・・・・・コイツら、そこの罠にかかった狸に、人間からパクった食い物を分けてやってたみたいだぜ?」
かやのが顎をクイッとすると、その方向にトラバサミに前足を挟まれ動けなくなった狸がいた。その狸に、先ほど紅葉から奪った菓子の中身を猿が食べさせている。狸の周りには菓子パンの袋や、たこ焼きの容器などのゴミが大量に散乱していた。
「石丸さん・・・・・・罠にかかって、かわいそうに。一体、誰がこんな酷い物を・・・・・・」
「そりゃ人間しかいねぇだろ。人間側からすりゃ、畑荒したり客から食い物横取りしてくる猿は害獣扱いだしな。けど、逆にコイツらからしてみりゃ、我が物顔で縄張り荒してくる人間の方がよっぽど害獣なんだろうけどよ」
石丸の事を見て涙を浮かべる紅葉と、冷たい目で罠を見つめるかやの。
「・・・・・・・・・・・・」
そんなかやのの言葉を聞いて、何か思う事があったらしい西小路は一人黙っていた。
無事に愛狸が見つかって、罠を解除してペットを保護した一行は、また石丸が食べ物に釣られてはぐれないように、大滝付近にある龍安寺近くの広場まで移動した。
石丸にリュックの中の菓子や手荷物内の果物を食べさせている。猿達から食料を分けてもらっていたとはいえ、全然足りていなかった石丸は凄い勢いでそれらを貪り食べていた。
そんな石丸と捜索用に借りていた石丸の写真を見比べて、かやのと西小路は一つ思う事があったらしい。
「なぁ紅葉よぉ、この狸・・・・・・全然別モンじゃね? なんつーか、ブタ?」
「確かに・・・・・・写真に比べて、なんというか・・・・・・丸すぎるというか」
紅葉から渡された写真の石丸は普通の狸に比べたら毛並みがよく、やや肥満になりかけている程度の体型だった。しかし、実物の石丸はその原型を留めておらず、狸の置物をそのまま生物にしたような丸々とした体型をしていた。
「あの罠の付近にも、真新しい人間の足跡があったし、そいつもその狸見かけてるハズなんだよな」
「これと同じ写真を他の人達にも配っていたのなら、見かけても絶対分からないよね」
「えぇ、その写真を他の方々にもお渡ししていますわ。とても格好良く写っていましたので。確かにその写真に比べると、今の石丸さんは『少しだけ』太ってしまっていますが」
「「ウーソつくんじゃねぇー‼ こんなん見かけても気付くかー‼」」
紅葉の抜けた発言に、普段優しい口調の西小路も、今回はかやのと一言一句違わずにハモった。二人の強めのツッコミに紅葉はビクッとなった。
「・・・・・・あっ、ごめん、つい」
驚いて身を震わせた紅葉に、慌てて西小路は謝った。
「い、一応最近撮ったのもあるんですが・・・・・・」
そう言って、今の石丸に限りなく近い体型で写った写真を出す紅葉。
「なら最初からそれ出そうや?」
「・・・・・・ごめんなさい」