#7
稲壱と怪物達に苦戦を強いられ、既に全身ボロボロになっていた。
『ハァッ・・・・・・ハァッ・・・・・・コイツ、反則過ぎんだろ・・・・・・・・・』
稲壱の周りには、バラバラに砕かれたマネキン達が転がっている。しかし、目の前の怪物は無傷のままだった。足元が不安定な山でも多脚ならではの安定性と、それを活かした機動性。そして何より壊しても崩しても、周囲の廃材を使い何度でも復活する体。完全にジリ貧状態だった。
『しまっ・・・・・・‼』
地面に埋まっていた怪物の一部のケーブルに、稲壱は足を絡め取られていた。そのままがんじがらめにされてしまい、ペンチ状の腕部に掴まれてしまう。メキッメキッと音を立てながら締め付けられ、稲壱は苦痛に悶える。
『ナカマ・・・・・・仲間・・・・・・なかま・・・・・・』
怪物は稲壱を取り込む気なのか、女児のような頭部の口をガパァっと開く。筒状の口腔内にびっしりと埋め込まれた無数の鋸が回転する。こんなところに放り込まれたら、間違いなくミンチになる。稲壱は暴れて抜け出そうとするが、ペンチは体を潰す勢いで挟み込んでいる為、全く身動きが取れない。
『グゥゥ・・・・・・センパイ・・・・・・・・・姐さん・・・・・・・・・』
稲壱が諦めかけたその時、
「稲壱ぃいいいいい‼」
かやのが目の前にいた。かやのはオフロードSWNを乗り捨て、そのまま怪物の体に飛び移ってよじ登り、稲壱を掴む腕にしがみ付いた。
『・・・・・・・・・姐さん?』「今助けてやる‼ だから、もうちょっとだけ耐えろ‼」
かやのは両足の力だけで腕にしがみ付き、両腕で拳を乱打する。頑丈なパーツが徐々に剥がれていく。怪物もかやのを振り落とそうと腕を振る。かやのは振り落とされてたまるかと、既に血だらけの右手に渾身の力を込め、必殺の寸拳を放つ。
稲壱を掴む腕は見事に砕け、稲壱は鋏に掴まれたまま地面に落とされた。
「大丈夫かい、稲壱君⁉」
『センパイ・・・・・・・・・遅いッスよ』
落ちた際に変化が解けた稲壱に西小路が急いで駆け寄り、身体に絡みついたケーブルを解く。稲壱は安心した笑みを浮かべ、嫌味を吐く。そんな稲壱に西小路は優しく笑いかけながら、「よく頑張った」と彼の奮闘を褒めた。
「ぐっ‼ ・・・・・・・・・ぐあぁァァァァァッ‼」
「かやのちゃん‼」
かやのは稲壱を助けた後に、敵の砕いた腕部から再生した人型の手に掴まれて藻掻いていた。ミシミシとかやのの骨が軋む。怪物はかやのを山の岩壁に叩きつけるように勢いよく投げつけた。かやのは激しい衝突音と共に背面が岩に叩きつけられ、「かはっ!」と血を吐いて意識を失った。
西小路は傷ついた稲壱と共に、かやののところへ走る。
「かやのちゃん‼ しっかりして‼」『姐さん‼ ダメだ・・・・・・意識が・・・・・・』
意識は失っているが、なんとか生きているようだ。西小路は敵に背を向けて、かやのを見つめながら、稲壱に何かを呟いた。稲壱は聞き取れずに、西小路に聞き返した。
「・・・・・・このワイヤーに妖力を込めてくれ。それと・・・・・・このライターも頼む」
西小路は静かな口調で、廃材の切れたワイヤーと、リサイクル業者の男がパニックの中落としたのであろうジッポーライターを稲壱に見せる。稲壱は言われた通りに、それらに妖力を込めた。
『あのっ・・・・・・センパイ。これも持っていって下さい! 妖力を込めた勝守と数珠ッス』
西小路は稲壱から魔道具を受け取り、ゆっくりと怪物の方を睨み付ける。その目は殺気が込められており、稲壱が身を震わせる程の凄味を感じさせた。
「・・・・・・許さん」
大事な仲間を傷つけられた事で沸き上がった激しい憎悪により、人の身に宿る妖狐の魂が目覚めた。