表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
78/128

#7

 稲壱と怪物達に苦戦を強いられ、既に全身ボロボロになっていた。


『ハァッ・・・・・・ハァッ・・・・・・コイツ、反則過ぎんだろ・・・・・・・・・』


 稲壱の周りには、バラバラに砕かれたマネキン達が転がっている。しかし、目の前の怪物は無傷のままだった。足元が不安定な山でも多脚ならではの安定性と、それを活かした機動性。そして何より壊しても崩しても、周囲の廃材を使い何度でも復活する体。完全にジリ貧状態だった。


『しまっ・・・・・・‼』


 地面に()まっていた怪物の一部のケーブルに、稲壱は足を絡め取られていた。そのままがんじがらめにされてしまい、ペンチ状の腕部に掴まれてしまう。メキッメキッと音を立てながら締め付けられ、稲壱は苦痛に悶える。


『ナカマ・・・・・・仲間・・・・・・なかま・・・・・・』


 怪物は稲壱を取り込む気なのか、女児のような頭部の口をガパァっと開く。筒状(つつじょう)口腔(こうくう)内にびっしりと埋め込まれた無数の(のこぎり)が回転する。こんなところに放り込まれたら、間違いなくミンチになる。稲壱は暴れて抜け出そうとするが、ペンチは体を潰す勢いで挟み込んでいる為、全く身動きが取れない。


『グゥゥ・・・・・・センパイ・・・・・・・・・姐さん・・・・・・・・・』


 稲壱が諦めかけたその時、


「稲壱ぃいいいいい‼」


 かやのが目の前にいた。かやのはオフロードSWN(スワン)を乗り捨て、そのまま怪物の体に飛び移ってよじ登り、稲壱を掴む腕にしがみ付いた。


『・・・・・・・・・姐さん?』「今助けてやる‼ だから、もうちょっとだけ耐えろ‼」


 かやのは両足の力だけで腕にしがみ付き、両腕で拳を乱打する。頑丈なパーツが徐々に剥がれていく。怪物もかやのを振り落とそうと腕を振る。かやのは振り落とされてたまるかと、既に血だらけの右手に渾身の力を込め、必殺の寸拳を放つ。

 稲壱を掴む腕は見事に砕け、稲壱は(はさみ)に掴まれたまま地面に落とされた。


「大丈夫かい、稲壱君⁉」

『センパイ・・・・・・・・・遅いッスよ』


 落ちた際に変化が解けた稲壱に西小路が急いで駆け寄り、身体に絡みついたケーブルを解く。稲壱は安心した笑みを浮かべ、嫌味を吐く。そんな稲壱に西小路は優しく笑いかけながら、「よく頑張った」と彼の奮闘を褒めた。


「ぐっ‼ ・・・・・・・・・ぐあぁァァァァァッ‼」

「かやのちゃん‼」


 かやのは稲壱を助けた後に、敵の砕いた腕部から再生した人型の手に掴まれて藻掻いていた。ミシミシとかやのの骨が(きし)む。怪物はかやのを山の岩壁に叩きつけるように勢いよく投げつけた。かやのは激しい衝突音と共に背面が岩に叩きつけられ、「かはっ!」と血を吐いて意識を失った。

 西小路は傷ついた稲壱と共に、かやののところへ走る。


「かやのちゃん‼ しっかりして‼」『姐さん‼ ダメだ・・・・・・意識が・・・・・・』


 意識は失っているが、なんとか生きているようだ。西小路は敵に背を向けて、かやのを見つめながら、稲壱に何かを呟いた。稲壱は聞き取れずに、西小路に聞き返した。


「・・・・・・このワイヤーに妖力を込めてくれ。それと・・・・・・このライターも頼む」


 西小路は静かな口調で、廃材の切れたワイヤーと、リサイクル業者の男がパニックの中落としたのであろうジッポーライターを稲壱に見せる。稲壱は言われた通りに、それらに妖力を込めた。


『あのっ・・・・・・センパイ。これも持っていって下さい! 妖力を込めた勝守と数珠ッス』


 西小路は稲壱から魔道具を受け取り、ゆっくりと怪物の方を睨み付ける。その目は殺気が込められており、稲壱が身を震わせる程の(すご)()を感じさせた。


「・・・・・・許さん」


 大事な仲間を傷つけられた事で沸き上がった激しい憎悪により、人の身に宿る妖狐の魂が目覚めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ