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#5

 日が傾き、西日が強くなった時刻。大学から廃材を買い取った業者が、自社の倉庫で数人の他の社員達と収集物を仕分けていた。

 稲壱は虫に化けて、その一部始終を見ていた。どうやらその倉庫には売れそうな家電や家具、鉄やアルミ等の一部金属のみを選別し、売れない物や処分に費用が掛かる物、それに修理費用の方が高くつくような物等はトラックの荷台に置かれたままだった。



 ところ変わって西小路とかやのは大学院の敷地内で、それぞれ白と黒のオフロードSWN(スワン)を運転しながら見回りをしていた。が、別に変わった事は起きない。


「ふーん、怪奇現象ねぇ。つーか、稲壱がそう感じたなら、ここはハズレじゃねぇのか?」


 西小路は見回りをしながら今回の依頼について、かやのに幸隆から聞いた事や、稲壱が感じた気配などについて話していた。


「多分、僕も本命は稲壱君の方だと思うんだけど、もしかしたらその男の『おぞましい何か』・・・・・・つまり、負の念がこっちにも影響を出すんじゃないかと思って一応ね」


 そう言って棟内を夜になるまで二人は見て回った。



 バタンッ‼ 深夜に突然、トラックのドアが閉まり、荷台でうたた寝をしていた稲壱はびっくりして飛び起きた。エンジンが始動し、車は走り出した。

 荷台に閉じ込められている稲壱は変化を解いて、ニオイで今どの辺を走っているのかを探ろうとした。微かに木々と湿った落ち葉の匂いがする。このニオイは自分が勝尾寺に行った時に、途中嗅いだものだと稲壱は感じた。それと同時に嫌な気配も感じ取り、


『センパイ、姐さん。勝尾寺の方で嫌な気配を感じるッス』


 稲壱は西小路とかやのにテレパシーを送った。

 次第にカーブが多くなり、荷台の中のゴミも左右に振られる。もちろん稲壱も何度も遠心力で荷台の中を転がされていた。何度目かのカーブで粗大ゴミに頭を打ち、稲壱は気絶してしまった。気付いた時には既にトラックは停まっており、荷台の扉を開けてゴミを山道に投げ捨てているところだった。『イタタタ・・・・・・』と頭を前足で押さえていると、


「なんだ、コイツ。どっから紛れこんできたんだ?」


 大学で引き取りをしていた業者の男に見つかってしまった。男は捨てようと手に持っていたゴミを使い、シッシッと稲壱を追い立て、トラックの中から追い払う。

 稲壱は『しまった、見つかった』と思い、山道斜面の木の陰に逃げる。彼はそこから男の不法投棄現場を監視していたが、ゴミを捨てる男に対して強い憎悪が湧いていた。


『どこに行っても人間はオレ達の住処を汚しやがる。センパイ・・・・・・こんな奴らの事なんて、やっぱオレには理解出来ないッスよ』

『ホホホ・・・・・・・・・ホホ・・・・・・』


 稲壱の憎しみに同調したのか、無機質だが強い怒りや憎しみが籠った笑い声がどこからともなく聞こえてきた。稲壱はハッとして辺りを見渡す。

 不法投棄をしていた男にも聞こえていたようで、


「何だ今のは? 鳥にしては変な声だな」


 と寒気を感じながら、周りを気にして見ていた。辺りは妙に生ぬるい空気が流れていた。


「しかし・・・・・・深夜の山は本当に薄気味悪いなぁ」


 男は恐怖を紛らわせるように独り言を言いながら、荷台から最後のゴミを出そうとする。すると突然、男のスマホが鳴った。着信画面を見ると自分の会社からだった。こんな時間に何かあったのかと、電話に出るが無言電話だった。ザッザザーッというノイズだけが聞こえる。気持ち悪くなり、すぐに電話を切った。そして急いでゴミを捨てる。


『ホホホ、ホホホホホ』


 今度ははっきりと聞こえた。無機質な声が。それも自分の真後ろから。男は怖くて後ろを向けなかった。そして再び電話が鳴った。ディスプレイには妻の名前があった。男は安心したくて、妻の電話に出た。


「も、もしもしっ‼」

「もしもし、どうしたのあなた? そんなに大声出して。それより、ザザッ・・・・・・今日はザーッ・・・・・・時にザーーッ・・・・・・るの? あなタだイジョう・・・・・・ザーーーーアァァァァァァァァァァァァァァァァァァ‼」

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ‼」


 電話からは確かに男の妻の声が聞こえていた。しかしその声は徐々にノイズにかき消され始め、最後には声も変成器を使ったかのように野太くなっていく。

 そしてノイズだと思っていた音が掠れた声の叫びに変わり、男は驚いてスマホを投げ捨てた。そのまま慌ててトラックに逃げ込み、エンジンをかける。そして前を見るとフロントガラスにリアルなマネキンが蜘蛛(くも)のように張り付いていた。

 男はパニックを起こしながらも発進させようとサイドブレーキを解除しようとするが、それとは違う感触が手に伝わる。

 男が横を見ると、人の顔を模した頭のマネキンが隣に座っている。男がサイドブレーキを解除しようと触ったのは、そのマネキンの手だった。


『ホホホホホ。ホホホほほホホほホ』


 突然そのマネキンが無機質な笑い声を上げながら、男の方にグリンッと勢いよく顔を向けた。男は「ギャアァァァァ‼」と叫びながら勢いよくアクセルを踏み込んだ。すると車は急発進して、目の前の山壁に正面から突っ込み、エアバックが開く。男は恐怖と事故の衝撃で失禁しながら気絶した。

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