#3
翌朝、探偵事務所トリックスターフォックスで西小路が稲壱を隣に、ソファーで人間に転生する前の昔話をしていた。稲壱は憧れの先輩『ダンテ』の力の秘密が聞けるかもしれないと内心ワクワクしながらも、真剣な面持ちで西小路の話をじっと聞いていた。
『自分は元々イタリアで生まれ、人からダンテと名付けられ、干渉し過ぎない程よい距離感で、人の世界と自然界の二つの環境の中で平穏に生きていた。
それから自分は外の世界に興味を持って、船に潜り込んで様々な地域を旅した。
そして途中立ち寄った日本が居心地良く感じて、そのまま居着いていた。そこで同族の親友も出来て、友達に誘われるまま中国に行った。
そこでは毎日が恐怖だった。自身や友達、仲間達の毛皮や肉を狙って、狩人や武人や貴族に狙われる日々・・・・・・。仲間が殺される度に膨らむ憎悪。人間に盗られるくらいならと、仲間の死肉を食べ、積もっていく悲しみ。
そして気付けば妖狐に変貌していた。尾もいつしか三尾に増えていた。最後は自分の親友すらも失い、喰らってしまった。深い悲しみで胸にぽっかりと空いた穴に怒りが満たされた時、自分の尾は六尾に分かれていた、と。』
「―――『妖尾の継承』、つまり妖狐が妖力を高める為に必要な事は同族を殺し、それを喰らう事じゃない。悲しみや憎しみ、怒りなどの負の感情そのものなんだよ」
西小路は稲壱に自分が妖狐になった経緯と『妖尾の継承』の真相についてを教えていたのだ。まるで家庭教師が生徒に分かりやすく説明するように。
「まぁ、これは妖狐に限った話ではなくて、妖怪全般に言えた事なんだけどね」
『でもセンパイは今人間ッスよね。屈辱に感じないんスか? いつの時代だって人間はオレ達キツネを・・・・・・いやキツネだけじゃない、動物を殺してそれで私腹を肥やして・・・・・・。更に剥いだ毛皮を服として着てる。そんな人間なんて・・・・・・オレには理解できないッスよ』
「確かに、理解しがたいところもあるね。だけど憎しみ合って、争ってばかりでは・・・・・・お互いにずっと理解出来ないだろう? 憎しみからは憎しみしか生まれない。真実を知ってもやっぱり歩み寄れないかもしれない。それでも、相手の立場に身を置いて生きてみるのも、その理解への第一歩になるんじゃないかな」
西小路は稲壱に優しく諭すように自分の考えを述べるも、
『う~ん・・・・・・オレには理解出来ないッス』
と、やはり否定する。西小路は少し困ったような顔をしながら「ハハハ」と笑った。
『でも、センパイが今まで培ってきた妖術には、オレすごく興味あるッス! だからセンパイが使ってきた技をオレに教えてくれたら、きっと再現していけるはずッスよ!』
「ありがとう、稲壱君」
西小路はニコリと笑う。
その後しばらく稲壱と談笑していると、事務所に一本の電話が入る。大学院の桜井幸隆から依頼のようだ。昔から学部に語り継がれている怪奇現象が、最近頻発しているから、調査をしてほしいとの事だった。
「稲壱ぃ~、いるか~?」
電話の途中でかやのが事務所に現れた。モフモフ成分不足で稲壱に会いに来たらしい。虚ろな瞳をしたかやのを見て、稲壱も『仕方ないなぁ』といった顔でかやのにモフられる。
「かやのちゃん、来て早々悪いけど、僕はこれから桜井先輩に会いに工学部の研究室へ行く事になったんだ。かやのちゃんも来るかい?」
西小路は電話を切り、ソファーで稲壱の腹に顔を埋めるかやのに話しかけた。
「いいぞ~」