#2
それから、かやのと西小路、紅葉、桃音、ローガンの五人で手分けして探す事になった。
「もしかしたら山に向かったのかもしれませんわね」
「ミーもそう思うデス!」
紅葉の言葉にローガンがキリッとしたキメ顔で同意した。
「勝尾寺側と大滝側に分かれて、上から下山しながら探した方が行き違わなくて良いと思います!」
桃音の案で、かやのと西小路、紅葉は勝尾寺方面へ、桃音とローガンは箕面大滝方面へ探しに行った。
かやの達はバスを使い、勝尾寺へ向かう。途中の山道に粗大ゴミが大量に不法投棄されているのを、西小路はバスの窓から見つめていた。
一方、稲壱は人の姿に化けて勝尾寺に来ていた。
鯉が泳ぎ、幻想的な霧がかかる水面の池を過ぎ、達磨が立ち並ぶ道を進む。まるで極楽浄土を思わせるような敷地内に流れる読経を聴きながら、長い階段を進む。
そして勝守の御守りと、魔除けの数珠を購入し、本殿で熱心に手を合わせた。
『どうか、センパイと姐さんに勝てますように・・・・・・何卒・・・・・・』
「・・・・・・誰に勝つって?」『ね、姐さん!』
不意に背後からかやのに声を掛けられ、ビクゥッと毛を逆立て驚く稲壱。
「見つけたぞ、稲壱」
彼女が稲壱を人目のつかない物陰で狐の姿に戻させたところで、西小路がかやのに追いつく。そこにはしょんぼりとした稲壱をあやすように首の辺りをくすぐるかやのがいた。
「見つかって良かったよ! でも、どうして逃げたりしたんだい?」
『オレ、姐さんに可愛がってもらってんのは有難いと思ってるッス』
稲壱はまず、かやのへ日常の感謝を伝えた。それから少し間を置いてから、思いをぶちまける。
『・・・・・・でも、オレはもっと強くなりたいんス! ペット扱いは嫌なんス! オレはもっと妖力を高めて、気高く生きたいんスよ! 憧れたセンパイみたいに‼』
「稲壱・・・・・・そうだったのか。ごめんな、気づいてやれなくて・・・・・・うっ、うっ・・・・・・」
稲壱の胸の内を聞いたかやのは稲壱に詫び、ぼろぼろと泣いていた。
「まぁまぁ・・・・・・かやのちゃん。しばらくうちの事務所で稲壱君を預かろうと思うんだけど。どうだろう? ほら、僕なら彼に色々教えてあげられると思うんだ」
グスグスと泣いているかやのをなだめながら、西小路が提案をする。
かやのは稲壱もそれを望むのならと、稲壱を見る。稲壱は『姐さんすいません』と一言。かやのは稲壱を優しく持ち上げ、西小路に稲壱を未練がましくも託す。
そこに紅葉も合流した。無事に発見された稲壱を見て、紅葉も一安心といった表情を浮かばせた。
「稲壱さんが見つかって良かったですわ」
その日の深夜、一台のトラックが勝尾寺に向かう途中の山道に停車している。
運転手は壊れた家電や、廃材を投げ捨て始めた。捨てている途中で何かの声が聞こえた気がして周りを見渡すが、何もいない。薄気味悪く感じながらも気のせいかと思い、残りのゴミを山道に投棄し、すぐにトラックで走り去って行った。
その後再び山道に訪れた静寂の中に、物悲しそうな掠れた笑い声が聞こえていた。