#1
前髪を切り揃えられた愛らしい女の子が、母親から市松人形を贈られる。人形はどことなくその女の子に雰囲気が似ていた。女の子は人形を妹のように大層可愛がった。
女の子が成長し、誰かのお嫁さんになり、息子にも恵まれた。年老いてから孫ができた。
病気になって寝たきりになっても、側には子供の頃から大切に、綺麗に手入れされた市松人形を大事そうに飾っていた。
そんな彼女はいつも義理の娘と、時々孫娘から介助されていた。
「いつもありがとうね・・・・・・」
「いいのよ、私たち家族じゃない。それよりね、おばあちゃん。私欲しいものがあるの」
祖母は孫娘にお金をいくらか渡していた。
それから時が流れ、祖母は亡くなった。亡くなる前に祖母から、代々、家の長女に引き継がれてきた市松人形も孫娘に贈られていた。
しかし、その孫娘は自分が小さな子供の頃から、歳を重ねるに連れ、どことなく自分に似てきているその人形を薄気味悪く思っていた。
雨の山道を一台の車が走っている。助手席の窓が開けられ、そこから勢いよく市松人形が投げ捨てられた。バキッと音を立てて、不法投棄の粗大ゴミに打ち付けられた。
ここは不法投棄の絶えない山道だった。ゴミに囲まれ、ひび割れた市松人形は天を仰ぎ、涙のように雨が人形の頬を伝う。彼女のガラスの黒い瞳は虚空をただ見つめていた。
大学寮の一室では、西小路が自室に紅葉と桃音、ローガンを招き、一緒にジェンガをして、まるでパーティ気分で楽しんでいる。
一方、かやのの部屋では。かやのが稲壱を風呂に入れ、タオルとドライヤーで丁寧に毛を乾かし、鼻歌を歌いながらブラッシングをしていた。しかしそんなかやのに対して稲壱はあまり嬉しくないようで、プルプルと震えている。
「ん? どうした稲壱。どっか痛いのか?」
『・・・・・・ぅ、ゃだ』「ん?」
『もう嫌だぁああああああああ‼』
稲壱がかやのの手を払いのけ、勢いよく部屋から飛び出していった。
「稲壱ぃぃぃぃぃぃぃ‼」
稲壱はかやのの部屋を飛び出した後、西小路の部屋のドアをカリカリと引っ掻く。が、中では達磨落としで騒いでおり、ドアの音には気付かない。
ドタンバタンと玄関で何かを倒すような音を立てながら、
「稲壱ぃぃぃぃぃぃぃ‼」
と、かやのがドアを勢いよく開けて転びながら飛び出す。稲壱はハッと後ろを振り向き、西小路の部屋のドアから離れて寮から逃げ去っていく。
「待ってくれぇええええええ‼」
かやのはそのままの体勢で叫ぶ。その声は西小路達にも聞こえたらしく、なんだなんだと、西小路が扉を開ける。
「かやのちゃん、どうしたの? そんな恰好で」
「ダンテ・・・・・・稲壱が逃げた」
涙目で彼に稲壱の逃亡を訴えるかやの。
「えぇっ⁉」