#5
翌日、一同は王に指定されたスタジオにいた。王が用意したVRtube専用スタジオは、王の父親が買収した制作会社を使っており、設備は十分過ぎる程整った環境だった。
西小路と紅葉は、こうした場所で撮影されているのかと、物珍しそうに辺りを見渡している。桃音と幸隆は恵まれた機材環境に目を輝かせていた。
早速三人は3Dモーションキャプチャーの器具を装着して動作確認をしている。その裏ではスタッフにより、Moneのアバターを幸隆と相談しながら、クオリティを高めていく。
残り二人のアバターは既に用意されており、紅葉は現実の紅葉がそのまま3D化したような姿で、衣装と髪色が赤く調整されただけだった。しかし、西小路はというと、王も言っていた通り女性の姿で、金髪長身の美女になっていた。
あとはそれを三人の動きに合わせて動くように設定し、演者達にも見えるようにモニターへ映し出す。王サイドの制作陣は西小路の姿を見てクスクスと笑っていた。
西小路は屈辱感でガクッと膝をつくが、かやのの為だと自分を奮い立たせ、立ち上がる。
この日は基本的な撮影前準備の体験をしただけで終わったが、西小路はどっと疲れたようで、ベンチで一人うなだれていた。そこに桃音がやってくる。
「お疲れ様です。西小路さん、だいぶやつれてますけど、大丈夫ですか?」
桃音は隣に座り、心配そうに西小路に声をかける。西小路は自分より年下の桃音に心配させては情けないと、ローガン風の笑顔で「大丈夫、大丈夫」と答えた。
すると今度は紅葉もやってきた。
「あの、桃音さん。知り合ったばかりで厚かましいかもしれませんが、もしよろしければ、今日私の家に泊まりに来ませんか? 色々と桃音さんのお話を伺いたいのと、曲の歌詞についても案を色々出しておきたいので、それも兼ねて。いかがですか?」
紅葉の突然の提案に、桃音は困惑する訳でもなく、むしろ嬉しそうに、
「えっ、いいんですか⁉ 喜んで!」
と、即答した。
その日の夜、紅葉の部屋で桃音とお泊り会が開かれていた。二人はお互いの話や、歌詞の案についても話をしていた。だが、年頃の女子が集まると、当然友人や恋愛事情の話に発展するもので、桃音は別の学校に行った友人の話や、同じ学校の先輩に密かに片思い中などの話をした。紅葉も西小路とかやの、石丸や稲壱の話をしていた。
桃音はお城のような豪邸で、お姫様のような部屋でお泊りが出来て、綺麗で優しくて上品なお姉さんみたいな紅葉とガールズトークをして、とても嬉しそうだった。紅葉も自分の憧れのアイドルといっぱい話せて幸せそうだった。
二人の様子を見ている石丸も尻尾を振ってご機嫌のようだ。