#4
それから数日後、王は西小路と紅葉を呼び出した。要件は西小路の要求を呑むという事。その代わりに王の要求を呑んでもらう事。
「オレはデータまで失うワケだかラ、オマエにもオレの要求を呑んでモラウ」
王は深刻な面持ちから一転して不敵な笑みを浮かべた。タブレットを二人の前に出し、起動させてVRtubeの動画を流す。そこにはKINGの過去動画が流れていた。
「オレはVRtubeをしテいてナ。登録者数も百万を超えているヨ。企業案件や他の配信者とのコラボの依頼を多数受けてイル。タダ、大した実力もナイクセに身の程も弁えズ、オレに何度も依頼を出してクル愚かな奴もイル。そこでオマエはソイツと組んで、女アイドルVRtuberとしてデビューしろ」
王は西小路に恥をかかせて屈辱を味あわせてやりたい、そんな感情が顔に出ていた。下卑た笑いを浮かべ、タブレットを操作する。西小路は王が有名な配信者だった事にも驚いたが、それと同時に自分への要求に対しての怒りが湧いていた。
「王・・・・・・なんて奴だ。この野郎・・・・・・」
西小路は拳を強く握り締めて怒りを堪える。そして深く息を吐いてから、「わかった・・・・・・」と怒りを嚙み潰したような震えた声で了承する。
「西小路さん・・・・・・」
紅葉が西小路に哀れみの目を向けた後、何かを決意したかのように強い眼差しで、
「西小路さん、私もやりますわ。西小路さんだけに恥ずかしい思いはさせません!」
紅葉は西小路を見つめ、彼の握り締められた拳にそっと手を添えた。
すると「ほぅ?」と口元を歪ませ、王が二人の前にMoneの動画を流す。このVRtuberとユニットを組めば良いとの事だった。
「えっ・・・・・・‼ この方は! Moneさんじゃありませんか⁉」
後日、百楽荘にある古民家カフェにて。カフェ内は古風なインテリアが飾られている。
西小路と紅葉はテーブルについて、王から紹介されたMoneと待ち合わせしていた。テーブルには紅葉のタブレットが置かれており、モニターにはKINGが映し出されている。王は顔出し完全NGなので、アバター越しから二人に指示を出している。王の事は基本的にKINGと呼ぶ事、またKINGの正体を明かさない事などだ。
予定の時間の五分前に桃音と幸隆が現れた。
「あの、初めまして! 桜井桃音です! MoneとしてVRtube配信してます」
明るく可愛い笑顔と容姿に、紅葉は憧れのアイドルとイメージ通りだと歓喜し、西小路は王みたいに現実とアバターの見た目にギャップがある人物じゃなくて、内心ホッとした。
妹に続いて挨拶した幸隆は、自分達に話しかけるKINGに大興奮していた。
「きょ、今日はお忙しい中、妹の為に貴重なお時間を割いて頂き、本当にありがとうございます‼」
各々の自己紹介が終わったところで、KINGは今回の企画について説明を始めた。自分のチャンネルの枠でアイドルライブ配信を行い、Moneをもっと多くの人に見てもらう事。
その条件として、西小路と紅葉とユニットを組んで三人組でステージに立ってもらう事。また、作曲と振付はこちらで用意するが、歌詞は三人で作ってオリジナル曲として歌う事。
それらの条件を聞いて、桃音はやる気満々で返事をした。