#3
それから数日が経った。かやのは大学の講義にも、アルバイト先にも、自室の外にすら顔を出さなくなっていた。紅葉は西小路の隣で講義を受けながら、
「かやのさん・・・・・・今日も来ませんわね。心配ですわ・・・・・・」
と、かやのの身を案じていた。西小路もかやのを心配して、何度も何度も彼女の部屋に様子を見に行くが、かやのはテントの中に引きこもったまま、西小路にも顔を見せないので、どうしたら良いのかわからなくなっていた・・・・・・。
「かやのさんは・・・・・・?」
「・・・・・・テントの中に引きこもってて出てこない。僕の声にも反応してくれないし・・・・・・正直どうしたら良いのか・・・・・・」
すると紅葉はしばらく考えて、
「西小路さん、まずはかやのさんを元気づけることをしてみませんか?」
西小路に、にこりと微笑む。しかし紅葉も辛そうな表情を隠しきれずにいた。
「・・・・・・うん、そうだね。でも、その前に―――」
西小路はかやのにトラウマを植え付けた原因を取り除く為、王に交渉を持ち掛けに行く事にした。それには紅葉も同行することになった。
寮のコミュニティー広場の対面ソファーで、西小路と紅葉が座って王を待っていた。嫌いな西小路に呼び出され、王が不機嫌そうに二人の元に歩いてくる。
そして二人の対面にドカッと座り、西小路に要件を尋ねた。西小路と紅葉は王に現在のかやのの状況を伝える。
「―――だから、王君が現在所有している、かやのちゃんの写真の破棄、及びデータの削除をお願いしたい」
いつもは温厚な西小路もこの時ばかりは、静かだが怒りを露わにしていた。紅葉もこの話をする前に、西小路から軽く事情を聞いていたので、王に軽蔑の視線を向けていた。
だが、王はそんな二人の気持ちなど知ったことかと、答えは当然のNO。むしろ自分に非があるとは思ってもいないようで、
「元気ナイなら、オレがかやのサンを元気づけるヨ!」
と、静止する二人を無視しながら、意気揚々と王はかやのの部屋に向かう。
そしてかやのの部屋のドアを軽やかにノックして、中まで聞こえるように甘い声で彼女の名前を高らかに呼びかける。すると中にいるかやのに王の声が聞こえたのか、廊下にまで響く程の音量で言葉にならない発狂の声が部屋から聞こえてきた。
ドタバタと玄関に向かう足音が聞こえてきて、ドアの鍵とチェーンをガチャガチャと掛ける音がした。普段部屋の鍵をかけない彼女のこの行動は、王に対して完全拒否の表れだった。
これには流石に王もショックで事態を重く受け止めた様子で、俯いてトボトボと自室に戻っていった。