#1
パソコンの画面に3Dのイケメンな男性のアバターが映し出されている。生意気そうな顔で頭に小さい王冠を乗せ、小気味よいテンポで雑談をしている。
彼の名前はKING。少し陰りを感じさせるイケメンボイスと、見た目通りの偉そうな口調による雑談とゲームの実況配信、そして企画力の高さが人気を博し、登録者数も多い人気 VRtuberだ。
『じゃあ今日はこの辺で失礼するヨ』
KINGの配信が切れ、パソコンがブラックアウトする。電源の切れた画面には、王の顔が映っていた。
紅葉は寝室のベッドに寝転がりながら、石丸と一緒にタブレットで動画を見ていた。画面には彼女の推しの VRtuberアイドル『Mone』が映っており、プロの歌手の曲を歌ってみた系の配信が流れていた。
Moneは登録者数こそ二千人弱と、まだまだ少ないが、元気で明るい声とそれをよく表現された可愛い笑顔が魅力的で、紅葉にとって彼女はお気に入りだった。
路側帯に石畳の一部が残り、古民家が立ち並ぶ箕面市 百楽荘にある一戸建ての家。一室の大広間で3Dモーションキャプチャーを着て、ダンスを踊りながら歌い、VRtube撮影をしている少女がいた。
彼女の名前は桜井桃音。淡いピンク色に染めたショートカットの髪が特徴的で、まだあどけなさが残る、箕面学園の高等部に通う十六歳の女子高生だ。
彼女の前方にはモニターと様々なパソコン機器が小規模な設備でずらりと並んでおり、デスクの前では桃音の兄・幸隆が編集作業をおこなっている。彼の目の前のモニターの中では、紅葉イチ推し VRtuberのMoneが、桃音の動きに合わせて踊っている。
桃音は大学院生の幸隆に、VRtubeに必要な難しいプログラムやキャラ等のデザイン、撮影や編集の諸々(もろもろ)を手伝ってもらいながら、トップVRtuberアイドルを目標に細々とだが活動していた。
撮影が終わり、「ふう・・・・・・」とひと息をつく桃音。
「なぁ、桃音。桃音はKINGさんとコラボとか出来たら、やりたいでゴザルか?」
幸隆はボサボサの前髪をかき分けながら、桃音に尋ねる。桃音は出来るならやってみたいと答え、それを聞いた幸隆は眼鏡を光らせた―――。