#6
西小路の目にはかやのが飽きて遊び始めているように映っていた。しかし、かやのと猿達の様子を眺めていると、会話が成立しているようにも見えなくもない。
その直後、座り込んでいた猿の一匹が大きな声で一鳴きして立ち上がり、藪の中に向かって行った。そしてかやのと残りの猿もそのまま先に行った猿の後を追いかけて藪の中に消えていった。
「かやのちゃん行っちゃった・・・・・・」
「行っちゃいましたね・・・・・・まさか本当に猿の言葉が・・・・・・?」
「いやいや、まさか。そんな訳―――」
この一連の流れで呆気にとられていた二人は、かやのの消えていった方を呆然と眺めていた。西小路は雄叫びを上げる密林の野生児かやのの姿が、脳内再生されていた。
すると紅葉の方から、ガサガサと物を漁るような音が聞こえてきた。その音に二人がハッと我に返ると、一匹の猿が紅葉のリュックに乗り、はみ出ていた菓子の袋を掴んでいた。
「あっ! それは石丸さんの‼」
紅葉がそう叫ぶと同時に菓子袋を掴んだ猿は一目散に藪の奥に逃げていった。
「ま、まぁ一袋だし、まだいっぱい―――」
「―――かけましょう」
「え?」
「追いかけましょう、西小路さん! あれは石丸さんのお菓子です! たとえ一粒たりとも石丸さん以外の子には渡せません‼」
「え? ちょっ! 待って、小野原さん‼」
菓子を盗られた事で急にスイッチが入った紅葉は、猿の逃げていった藪の方に大荷物とは思えない程の駆け足で追いかける。その後ろを西小路が慌てて追いかけていく。西小路は菓子一つで目の色が変わった紅葉に対して、内心呆れていたが口には出さなかった。