#9
最後は決勝審査のみだ。四名の選手が残っており、その中には24番とローガンが残っていた。先ほどまでとは違い、進行役からポージング指示が出ず、それぞれ一人ずつ得意ポーズを取り、それを他選手が同じポージングをする。一番目の選手が最初のポージングを決め、他の選手も真似をした。しかしやはり、ローガンと24番が圧倒的だ。
「24番デカ過ぎて固定資産税が掛かりそうだな!」
「5番、土台が違うよ! 土台がー!」
客席からは相変わらず一風変わった声援と歓声が選手に向けられている。どうも一笑いを狙った言い回しをするのがこの世界での通例のようだった。
それを聞いていたかやのは、
「よし、俺も次からなんか巧い事叫んでやるぜ!」
と、意気込む。そして西小路は大会のガイドブックを読んでおり、
「フムフム・・・・・・審査基準は筋肉の大きさとバランス、そしてどれだけ体脂肪を落としているか、ほかにも色々項目があるんだねぇ。なるほど・・・・・・奥が深い」
そう呟きながら、選手の肉体を独自に分析し、それをメモ帳にまとめている。紅葉はというと、未だ男性の半裸に慣れないのか、キャーキャーと悲鳴を上げながら、それでも応援しなくてはと思い、指の間からチラチラと選手達を見ては顔を赤らめる。
「5番、羽生えてるー! そのまま空も飛べるはずー‼」
「24番グレートプリケツ!」
既に次のポージングを選手達はおこなっており、主に背面の筋肉を見せつけるバックダブルバイセプスに、観客の掛け声が飛び交っている。かやのも負けじと、
「5番の腕がフジヤマボンバー‼」
と独特の掛け声を放つ。そして24番の得意ポージングがきた。アブドミカルアンドサイだ。上腕二頭筋からつま先にかけて、正面の筋肉を魅せる。観客も並ぶ腹筋達に圧倒され、「おぉ・・・・・・」と感嘆まじりの声から、
「でたー‼ 板チョコの大量生産だぁー‼」
と、全員の腹筋の壮観さを賛美する。そしてかやのも叫ぶ。
「お前らの腹のメロンパン、俺に食わせろー‼」
そしてやってきた、我らがローガンのポージング。ローガンは紅葉の方をジッと見つめ、熱い眼差しを送る。スウゥゥっと大きく息を吸うと、
『小野原紅葉サン、これがミーの全力のラブマッスルデース‼ どうかアナタに届きますように‼』
と心の中で大きく叫び、甘くて熱い全力スマイルで渾身のサイドチェストを決めた‼ これには観客も審査員も圧倒され、掛け声が上がらなかった。「うおぉぉぉぉ‼」という叫び声、そしてその場にいたほとんどの者のスタンディングオベーション。それがローガンの筋肉アートに対する称賛そのものだった。空調が効いているはずの会場内では選手と観客の放つ熱気が籠り、皆、汗が滲み、キラキラと輝いていた。
接戦の決勝を制したのは、24番・・・・・・ではなく、ローガンだった。
「優勝おめでとう‼」
「アリガトウゴザイマース! ベリーベリーサンキュー‼」
ローガンは優勝トロフィーと賞状とメダル、そしてプロテインを大会開催委員長から受け取り、応援してくれた客席の人達、そして紅葉に向けて、「ニカッ!」と笑顔を向ける。白い歯がとても眩しい。
「オォ・・・・・・ま、眩しい・・・・・・」
ステージ上で英雄のように大歓声を浴びる彼の眩しく光る笑顔を見て、『笑顔』というものはこういうものなのだと、西小路は思うのであった。