#6
『皆で温泉ランドに行った日から、ミーの小野原紅葉サンへのパッションはどんどん強くなるデス。あれからエブリデイ、講義を受けて、ジムでボディメイク、フードメニューの管理。少しずつ、ホットスプリングに行く前の日常にリターンしている気がするデース。いつもアナタに声を掛けたくて、でも話しかけるブレイブがミーには無くて・・・・・・。このチケットを渡すだけなのに・・・・・・』
「・・・・・・今日こそは」
アロハカフェで紅葉がアイスティーを飲みながら、かやのと話している。
「隣の文化芸能劇場の方では、ボディビルの選手権会場の準備がだいぶ進んできていますわね。あんなに大きな看板も立てられて」
「『筋肉は芸術だ!』か。いやいや~、筋肉はパワーだろ。おっと、レタス切らしてんな。レタス、レタス~っと」
カランカランと、客の入店を知らせるドアベルが鳴る。
「いらっしゃ~い、空いてる席どぞ~」
かやのはカウンター下の冷蔵庫の中を漁りながら、客に声掛けをした。その客は一直線に、カウンター席に座る紅葉の元に向かって行った。
カウンターの下をゴソゴソしているかやのの方を見ていた紅葉は、その気配に気付いて振り向いた。そこにはローガンが顔全体を赤くしつつも緊張した面持ちで立っていた。その手にはチケットらしきものを持っている。
「あっ、ローガンさ・・・・・・」
「あ、あのっ、お、小野原紅葉サンッ! これっ、良かったら! ミーの勇姿を見に、いやっ、応援に来ていただけませんか⁉」
「えぇっ⁉」
ローガンは両手でボディビル選手権のチケットを持ち、頭を下げながら紅葉に渡そうとしている。紅葉は戸惑いつつ苦笑いしながら、かやのの方を心細そうな目で見つめる。
かやのはレタスを取り出して立ち上がった時にローガンに気付き、
「ローガンじゃねーか!」
レタスを持ったままローガンの横に立ち、腹筋に軽く拳をポンポンと当てながら、「なぁ、俺と勝負しようぜ~?」とウザ絡みをし始める。
そんな彼女にたじろぎながらも紅葉にチケットを渡そうとするローガンと、「こんな時に西小路さんが居てくれたらな」と思う紅葉だった。
事務所の鏡の前で、西小路は笑顔の練習をしていた。ちょっと格好つけたキザな顔とポーズだ。
「西小路さ~ん?」
紅葉が事務所に入ってくる。西小路はひょこっと隣の部屋から顔を出し、「いらっしゃい」と迎え入れる。そこで紅葉はローガンからボディビル選手権の応援に誘われた事を西小路に相談した。西小路は少し考えた後、
「いいよ、僕も一緒にローガンの応援に行くよ!」
と、紅葉ににこやかに答えた。西小路の返事を聞いて、紅葉は安堵の表情を見せる。西小路は西小路で、「人間がどこまで鍛えられるのか」という事を知りたかったので、その知的好奇心を満たせるだろうと思っての了承であった。