#1
浅く霧がかった朝の千里北公園を西小路が真剣な面持ちでランニングをしている。
公園内に設置されている健康遊具も使い、自己流で体を鍛えている。一通りセットをこなし、汗を流す為に大学寮に帰る。
ポストのチラシを受け取り、部屋の机の上に置いた。
西小路はシャワーを頭から浴び、一気に汗を洗い流す。
「人間って、どこまで強くなれるんだろうな・・・・・・」
暗い顔をした西小路は鏡の前で自分の肉体を見ていた。
「稲壱君の時も・・・・・・この前のエイク君の時も・・・・・・僕は何も出来なかった」
西小路が朝のルーティンの一つ、笑顔の練習をするが、表情が曇っている為か、なんともぎこちない苦笑いになってしまっていた。
「・・・・・・このままじゃダメだな」
服を着て髪をタオルで拭きながら、机に置いたチラシに目を通す。その中の一枚が目に留まる。
『誰にも負けない強靭な肉体作りを応援‼』
箕面船場東にある温泉ランドの建物内に併設されている、本格的なスポーツジム。ジムには平日の昼間でも、多くの利用会員がいた。
皆、意識が高いのか、凄い筋肉をしており、筋骨隆々(りゅうりゅう)というのが相応しい。だが、そんな中でも一際強い存在感を放つ男がいた。その男は身長が190㎝で、凄まじい筋肉量をその身に宿している。まさに筋肉の塊といった印象だ。
彼の名前はローガン。アメリカから来た留学生で、西小路達と同じ学部に在籍している。また、アマチュアではあるが、ボディビルダーをしている。ローガンは、
「チカラは、パワーだぁー‼」
と叫びながら、100㎏のバーベルを持ち上げた。周りの会員達もボディビルダーなのだろう。
「おっ、ローガン! 今日も背中に羽が生えてるよ‼」
などと、努力に対して賛美の声を掛けながら、各々もトレーニングに励む。色黒でスキンヘッドの中年ビルダーが、ジムに入って来た別の会員達に、
「さんとうもいいねぇ! お、大胸筋が歩いてやってきたー‼」
と、声掛けをして、会員達のモチベーションを上げている。
「スポーツジムとはこういうところなのか・・・・・・それにしても皆スゴイ筋肉だなぁ」
西小路は一人、冷静に周りを観察しながら、黙々とマシーンでトレーニングをしていた。そんな西小路に気付いたローガンが彼のところにやってきた。
「HEY! ミスター・西小路じゃないか。ユーもここの会員だったなんて驚きデス!」
「いや、実はまだ入会したばかりでね。マシーンの使い方もインストラクターさんに軽く教えてもらったくらいなんだ」
「それならミーが色々ティーチしてあげるから、一緒にトレーニングするデース!」
西小路はローガンの体格を見て、これなら自分が望む理想の体作りが効率的に行えるかもしれないと思った。