#5
数十分後、一同は紅葉がペットとはぐれた地点に到着していた。
「石丸さ~ん!」
「さっきから気になってたんだが、紅葉がずっと連呼してるその石丸さんって誰よ?」
「さっき小野原さんが言ってた猟友会の人の誰かの名前なんじゃないの? なんかそれらしい人さっきから見かけるし」
西小路の持っている狸の写真と周囲に視線を行ったり来たりさせながら、かやのが呟く。滝に向かう人や帰る人に狸の写真を見せながら聞き込みをしつつ、西小路はかやのの呟きに答える。
「あ、いえ。人の名前ではありませんわ」
「は?」
「あっ! そういえばまだ言ってませんでしたね。ウチの子、石丸さんって名前なんです」
「いしまる・・・・・・さん? えっ、人名?」
「ちなみに『さん』までが名前ですわ」
紅葉の探している狸の名前を聞いて、困惑した半笑い顔をする西小路。そして紅葉と石丸を「変わっている」と呟くかやの。
「この滝の辺りでお菓子を持ったお猿さんに気付いて、凄い勢いで追いかけて行ってしまったんです」
「菓子? 猿が?」
「えぇ、この辺りのお猿さんは人馴れしてまして、観光客の食べ物を奪い取りに来たり、盗んだりもするんですよ」
「猿も猿だが、お前んとこの狸もたいがい意地汚ぇな」
「石丸さんは食べ物の事になると目の色が変わっちゃうので・・・・・・」
紅葉は困った顔で彼女に石丸の短所を話しつつ、すれ違う人に写真を持って声を掛ける。
「あっ、あの、すみません、少しだけお時間よろしいでしょうか?」
大滝前のベンチに座る人々に写真を見せて聞き込みをする西小路と紅葉。二人の聞き込みは全く成果を見せず、表情に焦りの色が見える。
「う~ん・・・・・・全然手掛かりが掴めないな」
「石丸さん、どこ行っちゃったんだろう・・・・・・。きっと今頃・・・・・・」
「あーもう面倒くせぇ。俺、その辺の猿どもに、狸の居場所聞いてくるわ」
「え・・・・・・?」「はい?」
かやのの突然の不思議な発言にかなり困惑した反応をする二人をよそに、かやのは周囲の一般客の目も気にせず、猿のような前傾姿勢で本物の猿と遜色無い鳴き声を発した。
それからベンチ傍の売店の近くで食べ物を狙っている数匹の猿に近寄っていく。その異様な光景に周囲のカップルや親子連れなどから痛々しい視線と嘲笑を受けている。派手な見た目のギャルがそんな奇行をしているのだ。注目されない方がおかしい。しかし、当のかやのは周囲の反応などどうでも良いといった様子だ。
「あの~・・・・・・かやのさんは一体何を・・・・・・?」
「いや、僕もよくわからない」