#8
稲壱の先導で、なんとか工場の一番上の階まで登ってきた西小路とエイク。煙は上ってきているが、火はそこまで回っていない。
今のうちにと、西小路はエイクの縄と首輪を外す。エイクの体には縄と鞭と熱蝋による軽い火傷の痕が、痛々しく残っている。
「西小路君・・・・・・ありがとう。助けにきてくれて嬉しかった」
エイクは頬を染めて俯きながら、西小路に感謝を伝える。
「あぁ、気にしないで。・・・・・・さて、ここまで来たはいいけど、どうしようか・・・・・・」
「この縄・・・・・・使えないかな?」
エイクは先ほどまで自分を縛っていた縄や首輪の鎖を指さした。「それだ!」と西小路はそれらを繋ぎ合わせ、一本の長い縄にした。そして稲壱を見てアイコンタクトを送る。
稲壱はエイクに気付かれないように、縄に妖力を込めた。それから西小路は魔道具となった縄の一端を窓枠にしっかりと結び付け、もう片方を窓から見える車止め用の鉄のポールまで飛ばす。妖力を持った縄は真っすぐに飛んでいくが、明らかに長さが足りない。
しかし、妖力を得た縄はシュルシュルと伸びていき、先端がポールまで届くと縄を蛇のように操って結びつけた。縄は少々たわんでいたが、西小路は問題無いと判断し、首輪を手に取ってそれを縄に掛けた。
「エイク君、これからこれで滑り降りるから、僕にしっかり掴まっているんだよ!」
「う、うん・・・・・・」
建物の高さに怯えた表情をしていたエイクだったが、
「大丈夫、僕を信じろ!」
西小路の強い言葉にトゥンクと胸をときめかせ、西小路に強くしがみついた。稲壱を自分の肩に乗せ、西小路は覚悟を決めて窓から飛んだ。
外は夕日で赤く染まっていた。火事の炎をも飲み込むような赤だった。
エイクは西小路にしがみついている間、ずっと彼の必死な顔を見ていた。エイクの頬も赤く染まっていたが、それは夕日に紛れた。
もうすぐ地上に着くといったところで、縄のたゆみによってバウンドし、首輪を掴んでいた両手を放してしまう。なんとか地面に着地出来たが、二人とも尻もちをつく。そこでエイクは緊張の糸が切れ、安堵からか気を失った。
「アンタ達! いま消防呼んだから‼ あれ、お嬢ちゃんとマコトさんは⁉」
二人が建物から出てくる少し前に廃工場に到着していたアイは、目の前の火事を見てすぐに消防に電話していた。そしてアイの言葉に対し、西小路は廃工場を指さす。自分達が脱出した時よりも炎が強くなっており、すでに最上階まで火が回っている。
「マコトさぁぁぁぁぁぁん‼」