#3
事務所に着いて、仕事着に着替えた西小路はバーカウンター傍の椅子に座り、昨日にアイから受け取ったマコトの写真を眺めながら、メモに取っていた相談内容を読み返していた。写真に写るマコトは肩幅が広く、見た感じがっしりした体型なのが容易に想像できる。顔も普通の三十代くらいのサラリーマン風といったところだ。しかし内容が・・・・・・。
「浮気調査と言ってもな・・・・・・ハァ」
正直、西小路には理解しがたい世界の話だったので、選り好みは良くないと思いつつ、この依頼は悪いが断ろうと思った。そんな空気を察したのか、カウンターの向こうで紅茶を淹れていた紅葉が、
「その依頼はお受けにならないのですか?」
と、西小路の前に紅茶を置きながら訊く。
「そ、そうだね・・・・・・ハハハ・・・・・・」
西小路は紅茶を啜りながら苦い笑みを浮かべる。
日も落ちてきて、西小路は紅葉を家まで送ると言い、大通りを抜けて、田んぼ道沿いを歩いていた。道中にあるラブホテルが既にライトアップを始めていた。
紅葉は会話の途中、何気なくホテルの方に視線を向けた。それに釣られて西小路もホテルに目が行く。結構人目に付きやすい開けた入口で、大柄な男に肩を抱かれた細身の青年がホテルに入ろうとしていた。入口のライトにも照らされ、二人の顔が良く見えた。
「えっ! ・・・・・・エイクさん⁉」「あの男は⁉」
西小路と紅葉は、ガタイの良いサラリーマン風の男とエイクがホテルの中に消えていく様子を目撃した。
衝撃的な光景を目の当たりにした紅葉は、真っ赤になった顔を手で押さえ、噂で聞いた事がある『薔薇の世界』を妄想していた。
西小路はエイクと一緒にいたのが、写真の男『マコト』である事に気付いた。
「へ? エイク君・・・・・・?」
思いがけない光景を目撃した西小路は紅葉を送った後、かやのがいるアロハカフェに来ていた。西小路はテーブルの上で組んだ両手に額を乗せ、カウンター内で食器を拭くかやのに深刻そうな声でしつこく絡む。
「ちょっと聞いてよ、かやのちゃ~ん」
「俺いま仕事中なんだけど」
「実は浮気調査の相談受けててさ~」
「俺いま仕事中なんだけど」
「さっきエイク君と男性がホテルに入っていってさ~」
「詳しく話せ」
急に手の平を返し、興味を示すかやの。その顔は新しい玩具を見つけた時の子供と同じだった。かやののワクワクした顔に「えぇ・・・・・・」と困惑しつつ、西小路は相談内容の説明と、その依頼を断ろうとしている事を話す。
「その相談受けろ。俺も手伝ってやるからよ!」