#2
西小路と紅葉は大学寮まで歩いていき、かやのの部屋の前まで来ていた。かやのの事だから、多分面倒でエレナT2を使っていないか、使っていたとしても自分と同じように通常の使い方をしているのだろうと、西小路は思いながらインターフォンを鳴らす。しかし返事は無く、中から何かの音が漏れていたので、西小路はドアを開ける。
「かやのちゃ~ん、入るよ~?」「お邪魔しま・・・・・・」
『フゥーーー・・・・・・ホワァタァーーーーーー‼』「オラァアアアアア‼」
部屋に入った瞬間、二人の目に映ったのは古い中国のカンフー映画のラストシーンに出てきそうな荒野の真ん中で、青い道着を着た仙人みたいな老人と、金色の文字でロゴが入った黒いスウェット姿のかやのがカンフーで戦っているところだった。
二人は酔八仙拳を使い、まるで映画のワンシーンのような動きをしていた。戦いの最中、かやのが西小路達に気付き、「ちょい、タイム」と言うと、独楽のように回転しながら繰り出す蹴りの動作途中で仙人が止まった。
「まさか、かやのちゃんがここまで・・・・・・」
自分の予想の遥か上をいっていた事に、西小路はショックを受けていた。そんな西小路をよそに、紅葉はかやのにVRについて色々聞いていた。西小路はここにきた本当の目的を思い出し、稲壱をちょいちょいと手招きして呼ぶ。
『なんスか、センパイ?』
「実は稲壱君に相談があってね・・・・・・」
西小路は稲壱を持ち上げ、ヒソヒソと二人に聞こえないように話す―――。
『―――なるほど・・・・・・』
「それで、君の妖力を道具とかに宿したり出来ないかな?」
『う~ん、自分そこまで妖力強くないんで、使い捨てみたいな感じになると思うッスけど、それでも良いッスか?』
西小路が返事をしようとすると、ふいに背後から肩を叩かれ、思わずビクッとする。
「俺そろそろバイトだから、部屋出てくんね?」
かやのが仕事の時間になり、この日は解散となった。
次の日、西小路とかやのと紅葉はいつものように三人仲良く並んで、大学の講義を受けていた。講義内容は倫理学を英語で行うというもので、テーマは西小路にとってはタイムリーな、ジェンダーフリーの愛について語られていた。
講義中、昨日の依頼人の話を思い出し、なんともいえない顔をする西小路だった。
授業が終わり、三人が帰る準備をしていると、後ろから王が足早に近寄ってきた。
「かやのサーン、かやのサンは今日も可愛いヨ」
「気色ワリィ事ぬかしてんじゃねぇ!」
ドゴッと重い音を立てて、王がかやののローリングソバットで軽く吹っ飛ばされた。
「かやのさんっ、見えてますわよ!」
紅葉がかやのに下着が見えていたことを注意した。今日はゼブラ柄だった。
かやのは「フン」と言って、先に帰っていった。
「わ、王さん、大丈夫ですか?」
かやのが手加減していたとはいえ、王の胸部には硬い厚底が当たっており、彼は胸を両手で押さえながら、「うぅ・・・・・・VRデはウマくいっタノに」と呻いていた。
その後、西小路と紅葉も講義室を後にし、他愛のない会話をしながら校内の廊下を歩いているとエイクとすれ違う。紅葉が彼に気付いて声を掛けると、エイクは「やぁ・・・・・・」と少し疲れた様子で返事を返した。その時に紅葉がエイクの手首に赤く痕になったスジに気が付き、その事を彼に尋ねた。エイクは手首の痕を押さえながら、
「ハハハ、ちょっとかぶれてしまってね・・・・・・」
と、笑う。それから少しエイクとも会話をし、二人は事務所に向かって歩いていった。