#1
とあるタワーマンションの最上階の一室、王の自室にて。白と黒のモノトーンのインテリアで統一された部屋のリビングで、王はかやのと一緒にソファーに座っている。
「かやのサン、もっとオレにキミのその可愛い顔を見せてくれナイカ?」
『は、恥ずかしいから、あんまジロジロ見んなよ・・・・・・』
王に見つめられ、頬を染めながら顔を背けるかやの。王はソファーから立ち、恥ずかしがるかやのの前に片膝をつくように跪き、愛の言葉を囁いた。
「かやのサン・・・・・・好きダヨ。かやのサンは?」
『・・・・・・バカ。そんなの言わすなよ・・・・・・』
この日、探偵事務所トリックスターフォックスに一人の依頼者が来ていた。耳と鼻と唇にピアスをつけており、体格もヘビー級レスラーを思わせるような大柄な男で、所々に鋲のついたレザージャケットを着ている。髪型もモヒカンスタイルでかなり厳つい。
そんな見た目の大男にジッと鋭い視線を向けられて、西小路はだいぶ緊張している。
依頼者は財布から一枚の写真を取り出し、スプリットタンが見える口を開いた。
「今日は、アタシの『夫』の浮気を調査してほしくてね」
「おっと・・・・・・?」
ピアスの大男は自らを『アイ』と名乗り、夫の名前は『マコト』だと教えてくれた。二人の馴れ初めから話し始め、関係は十年以上も続いている事を西小路に半ば惚気ながら話している。全く予想もしていなかったハードで濃厚な内容に、西小路は苦笑いで「はい・・・・・・はい・・・・・・」と相槌を打っている。
「―――夫には時々、他のオスの気配を感じる時があって・・・・・・でもアタシも普段は仕事があるし、なかなか証拠を掴めないでいるのよ。それで探偵さんに頼みたいんだけど、引き受けてくれないかしら?」
アイからの依頼内容を聞き、西小路は他の依頼もあり少々時間が掛かると理由をつけて、一旦保留にしてもらった。事務所に一人になった西小路は、色々な意味で疲れた顔をしてソファーに深く座る。
それから少しして、紅葉が石丸を連れて事務所にやってきた。
「あれから『エレナT2(ティーツー)』の調子はいかがですか?」
以前、紅葉の家に行った時に、西小路とかやのを案内したVRメイド。そのメイドを空間投影させていた円盤型掃除ロボット『エレナT2』と同型のものを、紅葉は西小路に渡していた。
エレナT2にはAIが搭載されており、使用者が学習させたデータ収集が目的で、西小路にモニターになってもらっていたのである。
「う~ん、それがイマイチ使い方が分からなくて。とりあえず掃除だけしてもらってるかな。あとは時々天気を訊くくらいで・・・・・・」
西小路は石丸を乗せて動いているエレナT2を見ながら、「ハハハ・・・・・・」と頬をかく。
「これから、かやのさんの所にもエレナT2の件で伺おうと思っているのですが、西小路さんもご一緒にいかがですか?」
「かやのちゃんちかぁ。気分転換に僕も行こうかな」