#10(完)
翌日、早朝。大学の広場にポツンと一人、王が立っていた。
『かやのサン、ホントに車返してくれるノカナ? オレはかやのサンの帰りを待ってルヨ。朝の光が目に染みル。朝焼けノ中かラ、馬の蹄が聞こえルヨ。アッ、かやのサンだ! かやのサンが帰ってきタ! ん? アレ? ナゼ馬に乗っている? ナゼ西小路ナンカと二人乗りシテル? ソコどけ、オレと代ワレヨ。ところでかやのサン、車はドコ?』
蹄の音が王に近づき、目の前で停まる。西小路とかやのが馬から降りてきた。
「ア、アノ、かやのサン。オレの車は・・・・・・?」
かやのは両手をファージャケットのポケットの中に入れ、何かを探すようなそぶりを見せた。そして右手に何かを握って、拳を王の前に出す。
「・・・・・・ん」
「・・・・・・え?」
かやのは片手をポケットに入れたまま、王に手を出せという仕草を突き出した拳で行う。それを読み取った王は手を開き、かやのの拳の下に差し出した。多分、彼女は車の鍵を先に渡そうとしている。礼も言わずぶっきらぼうに渡そうとするのも、きっと照れ隠しなのだろう、と王は甘い妄想に耽った。
「・・・・・・・・・ん」
ポトッ・・・・・・。王の手の上に、車の先端に付いていたエンブレムだけが落とされた。
「・・・・・・・・・ファッ⁉」
自分の手の平の上にある、とても見覚えのあるエンブレムに目を丸くしていると、続けて西小路がポケットからガサゴソと折り曲げられた紙を取り出し、
「あの・・・・・・王君。かやのちゃんの絵を欲しがってるって聞いたからさ・・・・・・はい、コレ。我ながら、なかなかの出来だよ」
と、王に申し訳なさそうに手渡した。それは西小路がかやのの似顔絵を描いたものだった。ちなみに絵のレベルは幼稚園児が上手に描けた程度のレベルである。
自分の手の中にあるモノに唖然としていたが、ふと我に返り二人の方を見た。西小路は早歩きでそそくさと、かやのは馬に乗って悠然と去っていった。
「・・・・・・こんなゴミ要るかーーーーーーーー‼」
王の虚しい叫びが、爽やかな朝の光に吸い込まれていった。
後日、探偵事務所に、紅葉が石丸とエイクを連れて訪れていた。
「あの、紅葉さんから聞いたよ。本当にありがとう、西小路君」
「私も危ないところを助けて頂いて、西小路さんとかやのさんは命の恩人ですわ」
エイクと紅葉は少しやつれてはいたが、晴れ晴れとした笑顔で、西小路に感謝を伝えた。
「かやのさんの方には、後ほど改めてお礼しに伺わないといけませんわね」
「今日はかやのちゃん、アルバイトだからね」
「それと、また石丸さんがこれを」
紅葉が西小路にメダルを手渡した。それは銅色のメダルだった。
西小路は銅メダルを見つめて、「・・・・・・ですよね」と心の中で呟いた。
第四話『ソウテイのミラージュ』完
最後までお読み頂き有難うございます。
もしよろしければ、こちら↓↓↓の広告下にございます「☆☆☆☆☆」欄にて作品への応援を頂けますと、今後の励みとなります。
よろしくお願いします。
次回、第五話『紅の薔薇』
お楽しみください。