#9
車はすでに大破寸前の状態で、建物内に飛び込んで来たのと同時に、かやのがフロントガラスを突き破る。そのまま紅葉と犯人の間を通り抜けるように、キラキラと光るガラスの破片と共に吹き飛んでいった。かやのからワンテンポずれて、車の後輪タイヤが彼女を追いかけるように飛んでいく。
「オフッ⁉」
ドゴォッと重い音を立て、少し軌道がずれたタイヤが犯人の腹部に命中する。犯人は大きく吹っ飛ばされ、そのまま意識を失った。
「紅葉ちゃん、大丈夫⁉」
「西小路さんっ‼」
激しい黒煙を上げる車から出てきた西小路は、後ろ手で縛られた紅葉を発見し、駆け寄って縄をほどく。
縄をほどきながら辺りを見回すと、タイヤに当たり気絶している男。炎上を始める王の車。そしてメチャクチャになったウッドデッキに、そこから室内に繋がる窓ガラスに空いた大穴と部屋中に飛び散ったガラス。
西小路はその惨状への言い訳に加えて、先ほどまでの警察とのカーチェイスなどの問題行動が脳内にグルグルと駆け巡り、
「うわっ、こ、これどうしよう! どうしたらいいかな⁉」
と、今更になってパニックになる。更にパトカーのサイレンが近づいてきたのにも気付き、紅葉の縄も途中から上手くほどけない状態に陥った。見かねた紅葉から「落ち着いて下さい」とたしなめられる。
「おい、ダンテ! 逃げるぞ‼」
声の方を向くとかやのが復活しており、馬に変化した稲壱に跨っていた。紅葉もこの惨状を理解したようで、あとは自分がうまく立ち回るから二人はこの場を離れてほしい旨を西小路に伝える。西小路はその言葉でやっと落ち着きを取り戻し、紅葉の縄をさっと解く。
「ダンテ! 早くしろ!」「ごめん、紅葉ちゃん‼」
西小路はかやのの操る稲壱に跨り、紅葉を残してその場から走り去る。