#5
―――美術学部の午前講義が終わったばかりの教室に、何故か王が来ていた。
「オイ、ソこノお前、コノ教室にエイクはいルか? いルなら今スグ呼んで来いヨ」
王はたまたま近くにいた生徒を呼びつけ、エイクを連れてくるよう高圧的に言った。
王の傲慢な態度にブツブツとこぼしながらエイクを呼びに行った生徒に、彼は「愚民が、早くシロヨ!」と怒鳴る。オドオドとした様子でエイクがやってきて、
「・・・・・・どうしたの?」
と、王に要件を聞くと、
「コの娘の肖像画ヲ描いてクレ」
彼はエイクにかやのの写真を見せた。
しかし、彼の威圧的な態度にムッとして、エイクはその依頼を「嫌だ」と断る。
「オレの依頼ヲ断るノカ? オレにはお前が二度と、絵で商売出来なイようにスル事だって出来るヨ? ソレに何もタダで描けと言っているワケじゃないヨ」
王は小切手に金額を描いてエイクに見せる。提示された破格の金額に、エイクは王からの依頼を渋々承諾した。
放課後、アロハカフェのカウンター席で連続失踪事件について、西小路は考えていた。彼の注文した品の隣には昨日の新聞が置かれていた。
かやのはカウンター内で洗い物をしている。
「お前それ、昨日の新聞じゃね?」
「うん、ちょっと気になった事があってね。かやのちゃん―――」
西小路がかやのに話を切り出そうとした時、店のドアが開いた。
「いらっしゃ~い・・・・・・って、エイクじゃん」
入店してきたのはエイクで、かやのに話があるようだった。
「突然、ごめんなさい。かやのさんの肖像画を描いて欲しいという人から依頼があったんだけど、描かせてもらえないかな?」
「はぁ? 絵だぁ? 面倒くせぇ。俺はゴメンだぜ。つーか、誰が俺の絵なんざ欲しがってんだよ?」
「王って人なんだけど・・・・・・」
「王か。おう、イヤだわ」
エイクは王からの依頼で、かやのの絵を描かせてほしい旨を伝えたが、彼女はそれを拒否した。それでも彼はしばらく食い下がって頼み込むが、かやのもずっと断り続けた。
彼女はモデルになってくれないと悟ったエイクは、仕方なく諦めて店を後にした。
「・・・・・・ったく、王の野郎。なんで俺の絵なんざ欲しがるんだか」
「・・・・・・エイク君・・・・・・・・・っ!」
この時、西小路がハッと何かを思い出した。
すると、カランカラン、と再び店のドアが開く。
「いらっしゃ・・・・・・なんだ、今度はお前かよ」
「ウフフ、お二人がお店にいらしているのをお見掛けいたしましたので」
入店したのは紅葉で、西小路の隣に座った。そして、西小路の前に置かれていた新聞を見て、紅葉は眉をひそめながら尋ねた。
「・・・・・・女性連続失踪事件。怖いですよね。もしかしてこの事件の関係者の方からご依頼を受けられたのですか?」
「ううん、そういうわけじゃないよ。それに、こういう事件は警察の仕事だと思うしね・・・・・・あっ、そういえば紅葉ちゃんって、GPSとかって使ってる?」
「えぇ、スマホにGPS機能がついておりますが」
紅葉は自身のスマホを取り出し、GPS機能をオンにして見せた。なぜそんな事を聞くのかと尋ねると、「最近物騒だから、念の為に」と西小路は答えた。
「では、私、これからピアノの教室がありますので。すみませんがこれで失礼致しますわ」
紅葉は二人に軽く会釈をして、店を後にした。紅葉がいなくなって、再び西小路はかやのに新聞の記事とスマホの画面を見せ、先ほどの続きを話し出した。
「かやのちゃん、これを見て欲しい」
かやのは西小路から新聞とスマホを受け取ると、じーっと見比べた。
「んー・・・・・・・・・見たとこ、一致してるな」
かやのは目を記事と画面で何度も往復させながら、二つを見比べた感想を述べた。
「僕、ちょっとエイク君を探しに行ってくるよ」
そう言って、西小路は店を出て行った。きっとエイクは大学にいるはずだと思い、西小路は校内に入っていった。