#4
翌日、西小路が寮から大学に向かうと、後ろから馬の蹄の音が聞こえ、振り向くと馬に乗ったかやのがいた。
「その馬どうしたの⁉」
「ん? あぁ、稲壱の散歩がてらな」
稲壱を馬に変化させて散歩のついでに、そのまま乗ってきたらしい。稲壱には鞍はついておらず、手綱代わりのロープだけがついている。自分が歩いて散歩させるのはダルいのだという。いやはや、面倒臭がりのかやのらしい発想だ。
「西少路さーん、かやのさーん、おはようございます」
二人の前に、小野原家の執事が運転する高級車が停まり、中から紅葉が降りてきた。紅葉は二人に会釈すると、かやのの馬を見て、
「え、かやのさん! お馬さんもお持ちだったのですか⁉」
と、とても驚いた様子で、かやのに尋ねる。
「山で拾った。ここは猿と狐だけじゃなくて馬もいるんだな」
かやのの適当な言い訳に、西小路はさすがにその言い訳は苦しいだろうと思った。だが、紅葉は抜けているのか、「そうなんですね」とすぐに信じ込み、西小路は拍子抜けしていた。
そんな朝の会話をしていると、ガリガリガリッと地面に金属がこすれる音が紅葉の後方からして、三人がその方向を見ると、三輪バギーと戦闘機のコックピットを足したような奇抜な形状の四輪車が、歩道の縁石にボディを削りながら駐車スペースに入っていった。
「かやのサァ~~~ン‼」
かやのに手を振りながら、カメラ片手に軽快なステップで近づいてくる男が現れた。
彼の名前は王といい、中国から来た留学生で、西小路達と同じ学部に在学している。ムチムチと肉が詰まった肥満体型で、電話の受話器が乗ったような独特の髪型をしている。
尚、彼の父親は中国で急成長させた企業の社長で、紅葉の家ほどではないが、かなりの金持ちだ。
かやのの近くまで来た王は金色のカメラで、かやのを色んな角度で激写する。
「勝手に撮ってんじゃねーよ」
かやのは落ち着いた声のトーンで王が構えているカメラを掴み、そのまま流れるような動作で地面に勢いよく叩きつけ、厚底靴で粉々に粉砕する。
「アァァアアアァァアアァァ‼ オレのカメラがぁあああ‼」
日本で三百台限定生産の高級カメラをかやのに無残に破壊され、王は『数百万だった物の残骸』の前で膝をついて叫んでいる。
そんな王の事はお構いなしとばかりに、駐車スペースに馬の稲壱を連れて行く。
「うおぉぉおおおお‼ なんじゃこりゃあ‼ 超かっけぇーーーー‼」
突然かやのが、周囲に注目されるような声量で叫んだ。
西小路と紅葉と王が一斉に声の方向を向くと、先ほどの奇抜なデザインの車を見て、かやのが大はしゃぎしていた。
するとさっきまで叫んでいた王が急に笑顔になり、小走りでかやのと車の前に向かった。
それは王の車だったようで、自国の企業に特注で作らせ、日本に持ってきたという。王は活き活きと車の値段やスペックをかやのに説明し、彼女をドライブに誘っていた。