#2
石丸を膝に乗せ首元の毛を撫でながら、紅茶を飲む紅葉が暖炉の側にある豪華な装飾と細やかな細工がされた置時計を見て、「そろそろかしら」とつぶやくと同時に、
「お嬢様、エイク様がお見えになりました」
小野原家に仕える老執事がノックの後に、扉の向こうにいる紅葉に来客を知らせた。
「どうぞ、お入りになって下さい」
紅葉が部屋への入室を促すと、エイクと呼ばれた色白で線の細い美青年が画材を持って部屋に入ってきた。
彼は紅葉達と同じ大学の生徒で美術学部に入学した、ロシアからの留学生だ。若くして画家としてデビューしており、女性を中心に人気を集めている期待の新人画家でもある。
「では、続きをお願いいたしますわ」
紅葉は椅子に座り直し、エイクの前でポーズをとる。エイクは目の前の紅葉の肖像画を描いている。絵は写真と見紛う程に忠実で精密だった。既に完成間際で、多分今日中には
終わるだろう。
「今日は何か嬉しい事でもあったの?」
エイクはキャンバスに絵具を塗りながら、彼女に尋ねた。ぱっと見、いつもと変わらない笑顔だが、わずかにいつもより優しい表情になっているのに気付いたのだ。
紅葉はエイクの問いに、
「ウフフ・・・・・・それはですね・・・・・・」
『小野原』と書かれた表札がついた大きな門の前に、稲壱を抱きかかえているかやのと西小路が立っていた。
「おい、ダンテ、マジでここで合ってんのか⁉ 城だぞ、城‼」
「ナビによるとここみたいだけど・・・・・・。それにしても、でっかいな~‼」
西小路は大豪邸を前に何度も表札を確認して、それから恐る恐るインターフォンを押す。
すると若い女性の声で対応され、西小路が名乗ると、
「西小路様とかやの様ですね。どうぞ、お入り下さい」
との返事と共に、ウイィィィィィンと音を立て、西小路が見上げる程の巨大な門が自動で開いた。そのまま真っすぐ進むように指示され、二人は周りに設置されている彫像や噴水などの豪華な装飾に驚き、キョロキョロしながら道なりに歩く。
玄関まで着くと、まるでホテルのドアマンのような服の男性が立っており、男性が扉の中に二人を案内した。エントランスホールには美人のメイドが立っており、
「あとはこのVRメイドがご案内いたします」
と、男性から紹介されたメイドが二人にペコリとお辞儀をした。まるで本物の人間のように見えるが、足元に円盤状のロボット掃除機があり、そこからメイドが投影されている。
「スゲェなこれ。どうなってんだ?」
かやのはメイドに興味津々で、紅葉のいる部屋に案内されている途中、立体映像に向かって手を入れたり抜いたりしている。
西小路はまるで宮殿のような廊下の装飾に視線を右往左往させていた。
「お嬢様、西小路様とかやの様がお見えになられました」
インターフォンでの対応の時と同じ音声で、自室の中の紅葉に声をかける。扉の内側から「はーい」と返事があり、ガチャリと部屋のドアが開かれた。