#10(完)
―――とあるオフィスの一角で、事務作業を行っている女性の後ろ姿があった。
『キュー・・・・・・キュー‼』
壁に設置されている書類棚の下部の引き出しの奥。その中に動物が出入り出来る扉が付いており、そこから石丸が上半身を出している。腹の肉が引っかかり、扉をくぐれないで藻掻いていた。
「やれやれ、またですか? 少しは痩せないと駄目ですよ。これ、今回のメダルです」
女性は石丸を引っこ抜くと、銀のメダルを石丸に咥えさせる。石丸は扉に戻るが、
『キュー・・・・・・』
当然、肉が引っかかる。女性は石丸の尻を押して、キュッポンッという音を立てながら石丸を扉の奥へ押し込む。
石丸が通った扉を抜けた先は、持ち運び可能なペットケージの中だった。
―――化け狐との戦いから、数日後。探偵事務所には、身体中に絆創膏を貼った西小路と、生理の痛みとそれの鬱憤を晴らせて機嫌が良いかやの。怪我をしている西小路を心配しながらお茶を沸かしている紅葉、それに床に転がっている石丸がいた。そしてもう一匹。
「可愛らしい子ギツネちゃんですわね。名前はもう決まってますの?」
紅葉が二人の前に紅茶を置き、かやのの足元にお座りしている子狐を見て名前を訊ねる。
「この子の名前は・・・・・・」「稲壱だ。かっこいいだろ?」
西小路が答えようとすると、かやのがそれに割り込む。彼女は稲壱と名付けられた子狐を優しく抱き上げ、自分の膝の上に乗せながら答えた。
結局、『西小路を襲い、大学でも噂になった狐』は西小路とかやのに捕獲されて、箕面の山に放された事になっていた。そして、その際に親とはぐれた様子の子狐を見つけて、そのまま保護したという話で、事前に紅葉に説明していたのだ。
稲壱は笑顔のかやのから耳や尾を弄り回され、大人しくされるがままだが、もの凄く嫌そうな顔をしている。
「稲壱ちゃんが来て、この事務所も賑やかになりますわね」
かやのの膝に乗る稲壱を見つめながら、紅葉が「ウフフ」と優しく微笑む。
「石丸さんもお友達が増えて良かったですわね・・・・・・って、石丸さん? その口に咥えてる物は・・・・・・?」
そう言いながら紅葉が石丸の方に目をやると、石丸が銀色に光る物を咥えている事に気が付いた。
「これは・・・・・・メダル? もう、石丸さん。何でも口にしちゃダメですわよ」
紅葉が石丸の口からメダルを取り出すと、
「・・・・・・えっ? あっ! かやのちゃん! 銀メダルだよ!」
「・・・・・・っ! マル、お前一体どこでこれを⁉」
それを見た西小路が紅葉からメダルを受け取り、かやのは石丸に詰め寄っていた。
「もしかしたらそのメダル、石丸さんなりにお祝いのつもりかもしれませんわね」
「とりま、銀ゲットだぜ!」
「善ーーーし!」
かやのと西小路がハイタッチを決め、それを紅葉がにこやかに眺めていた。
第三話『スプリング・ハリケーン』完
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次回、第四話『ソウテイのミラージュ』
お楽しみください。