#9
化け狐に掛けていたホールドを解いて、かやのがブリッジの体勢から腹筋の力で上体を起こし、西小路に手を差し伸べた。
「・・・・・・ったく、こんな近くに居やがったのか。こっちはあちこち探し回る羽目になったんだからな?」
「ごめん、ごめん」
西小路はかやのの手を取り、よろけながら立ち上がった。
『ウゥ・・・・・・クソ・・・・・・』
それと同時に化け狐の方も呻き声を上げながら頭を押さえ、フラフラと起き上がろうとしている。
「やっぱ一発じゃ無理か・・・・・・おいダンテ。俺のこと投げれるか?」
かやのは両手をバレーボールのレシーブのような形に組んで、西小路に見せる。
「まったくかやのちゃんは・・・・・・相変わらず人使いが荒いなぁ。う~ん、一回くらいならなんとか・・・・・・」
かやのが助けに来てくれた事で、西小路の表情にも余裕が出てきた。苦しそうではあるが、ニコッと笑顔をかやのに向ける西小路。
「おぅ、上等! この次でアイツを沈めてやるぜ!」
かやのは助走をつける為に一旦後ろに下がり、西小路は化け狐に背を向けて彼女をレシーブ体勢で待ち受ける。
かやのは大きく右腕を上げ、五指を立ててカウントダウンをする。
化け狐がヨロヨロと立ち上がったのと同時にカウントが一になり、かやのが西小路に向かって駆け出した。ガッガッガッと彼女の厚底ブーツが重い音を立てる。
ひと際鈍い音を響かせて、かやのは強くコンクリート床を蹴る。そして、西小路の両手に右足を乗せた。
腕に重量を感じた直後、足から腰、腰から背中、背中から肩、そして腕へ力を伝達させる。西小路は咆哮を上げながら、かやのを宙へ跳ね上げた。
勢いをつけたかやのは前方へ宙返りし、化け狐の両肩に足を掛けると、その時の反動で彼女の上体が持ち上がる。
その直後、瞬時に両足で化け狐の首を締め上げる。かやのは勢いを一切殺さずに、相手を締め上げたままバック宙のような形で、
「どらぁぁあああああああああああ‼」
背を思い切り反らせて、化け狐を巻き込みながら一回転する。先ほどの技の時よりも激しい轟音を立てて、化け狐の脳天を鋭く床に叩きつける。ウラカン・ラナに見せかけたフランケンシュタイナーだ。
かやの自身の筋力と勢いだけではなく、化け狐の巨体をも利用した投げ技によって、激突した床に大きく亀裂が走った。
かやのの攻撃によって、立て続けに頭部に強い衝撃を受けた化け狐は意識を失い、自身の変化が解けて本来の姿に戻っていた。