#5
うまく化け狐から逃げられて、何とか寮に辿り着いた西小路は、タオルを負傷した腕に巻き付けて止血する。その直後、どっと押し寄せてきた疲労と傷の痛みから、気を失うようにベッドに倒れ込んだ。
『暗雲立ち込める空の下、六本の尾を生やした妖狐がよろめきながら飛んでいた。
「クソッ・・・・・・しくじった・・・・・・・・・」
妖狐の体中には矢や槍、折れた刀や鎖鎌などの武器が刺さり、銃創までもあり、とめどなく血が流れている。
妖狐は命からがら中国から日本に逃げている途中だった。強力な力をもつ然しもの六尾の狐も、京都伏見の上空にてついに力尽きて墜落してしまった。
満身創痍の妖狐の前に、美しい白銀の九尾をもつ女神が現れた。
「いまは安心して、ゆっくり眠りなさい」
女神は死の間際の妖狐に触れ、その傷を癒す。』
そこで目が覚めた。窓の外から雀の鳴き声が聞こえる。
「今のは・・・・・・夢?」
西小路は身体を起こそうとするが、全身がだるくて力が入らない。どうやら昨夜受けた傷から菌が入り、熱が出ていたようだった。傷の方は止血されているが、ズキズキと痛む。
西小路は回復するまで、大事を取って今は大人しく休む事にした。
その日の夕方、紅葉から連絡があった。かやのだけでなく西小路も授業に来ていなかったので、何かあったのではないかと心配になったという。
西小路は熱があり、薬を飲んで休んでいる旨を紅葉に伝えた。紅葉は「お大事にされて下さい」と西小路を気遣って、すぐに電話を切った。
それから更に二日後、西小路は熱がひいたので授業に出ていた。そして、かなり不機嫌そうな様子だが、かやのも出席していた。紅葉は久しぶりに二人に会えて喜んでいたが、西小路の左腕に巻かれた包帯を見て、ひどく心配した。
「西小路さん、その腕どうされたんですか⁉」
「実はこの間の手伝いのあと、事務所に寄ってから帰ったんだけど、その時に狐に襲われちゃってね。その時にばい菌が入って熱が出たんだと思う。いや~、箕面市にも狐っているんだね」
「え! そんな危険な狐がいるんですか⁉ 周辺住民の方々の安全の為にも、ちゃんと捕獲しないといけませんわね!」
「・・・・・・う~ん、でもなんというか、その狐が人を襲うようになったのには、何かしら理由があると思うんだよね」
西小路は紅葉の発言に思うところがあり、少し間をおいてから複雑そうな表情で呟いた。