#4
「・・・・・・化け狐か。僕は、妖怪退治はしてないんだけどね・・・・・・」
爪についた血を舐めながら人語を発す化け狐の目を、じっと睨みつける西小路。彼は体勢を低くして後ずさる。
急な不意打ちで左腕に深手を負ってしまった。戦うよりも逃げる事を優先、西小路の脳内には逃走経路、そして逃走シミュレーションが高速で駆け巡っていた。
『あれ~、逃げるつもりッスか? アンタを探して、遠路遥々那須から来たんスよ? 残念ながら逃がさないッス。ダンテセンパイ、大人しくオレに喰われて下さい!』
化け狐はそう言うやいなや、再び西小路に襲い掛かった。
「おかしい・・・・・・なっ! 僕はっ・・・・・・まだ君にっ、名乗った覚え・・・・・・ないけどっ!」
化け狐は西小路に連続で飛び掛かり、どんどん人気の無い小川沿いの畑の方に追いやっていく。
息次ぐ間を与えぬ攻撃を飛び込み前転やバック宙を交えて、アクロバティックに避ける西小路。そして避ける際に石を拾い、それを化け狐の眉間に投げつけた。ゴツッという鈍い音を立て化け狐は一瞬ひるんだ。しかし、すぐに怒りを込めた目を西小路に向け、左の爪を大きく振りかぶる。
『センパ~イ・・・・・・痛いじゃないッス・・・・・・かぁ!』
西小路は後ろに地を蹴って、爪を辛うじて布一枚で避ける。だが、爪を振り下ろした直後の勢いのついた体当たりをもろに食らってしまい、大きく吹き飛ばされる。
「ぐあっ・・・・・・」
後ろに吹き飛ばされ、何とか起き上がろうとしている西小路に、化け狐は鋭い牙が光る口を大きく開き飛び掛かる。
西小路は横に転がりながら、相手の一撃を避ける。攻撃を避ける際に、倒れていた時に掴んでいた砂を化け狐の目に思い切り投げつけた。
『グッ‼ ・・・・・・テメェやりやがったなァ⁉』
砂による目つぶしが成功し、その隙に力を振り絞り、西小路は一気に立ち上がって全力で逃走する。
逃げる西小路の後ろで、目を前足でこすりながら化け狐が何かを叫んでいる。