#2
翌日、ようやく嵐が終わり晴れたが、今回の雨の被害は大きく、街は復旧作業に追われていた。
大学側も《午後から再開します》と通告メールを送り、午後に西小路と紅葉は講義が行われる教室に来ていた。しかし、そこにはかやのの姿が無かった。
「かやのさん、今日はお休みなのでしょうか?」
「あぁ、うん―――」
『西小路は天候が回復した後、大学に行く前にすぐに寮に戻り、かやのの部屋に彼女の様子を見に行っていた。
かやのは外出時以外には鍵を掛けないので、一応呼び鈴を鳴らしてからドアを開けると、部屋の中は妙に血生臭かった。嫌な予感を感じつつ、「かやのちゃ~ん」と声をかけるのとほぼ同時に、すぐ手前のトイレの中から、獣のようなうめき声が聞こえてきた。
「ダンテか・・・・・・? 腹がクソ痛ぇ・・・・・・股から血が止まらん。俺は―――」
かやのの声を聞いて安否を確認した西小路は「あっ・・・・・・うん」とだけ言って、そっと玄関のドアを閉めた・・・・・・』
西小路は教科書とノートを鞄から取り出しながら、かやのの最後の一言を紅葉に伝える。
「―――なんか、『俺はトイレの神様になる』って言ってたよ」
それを聞いて、紅葉はかやのが何か悪い物でも食べて、食あたりでも起こしたのだろうと思った。そして、もう一つ気になっていた事を西小路に尋ねる。
「そういえば依頼の方はどうですか? 今回の台風で依頼も多くなったのでは?」
「いや~・・・・・・それがさ、依頼も全部吹き飛ばされちゃって・・・・・・」
それを聞いた紅葉はスマホを取り出し、「それならこういうのがありますわ」と箕面市の地域コミュニティの掲示板を開いて見せる。そこには今回の嵐で、特に被害にあった地域の住民が書き込んだ手伝い募集などの依頼がずらりと並んでいた。
西小路は紅葉のスマホを借り、講義中も掲示板を眺めていた。
その日の講義が終わり、紅葉は西小路に気になる依頼があったかどうか聞いた。
「なにか気になるものはありましたか?」
西小路はスマホのページをスワイプし、気になる書き込みを紅葉に見せた。
そこには箕面五丁目にある個人で経営している古書店からの依頼で、浸水の影響で本が泥で汚れてしまったからそれの拭き取りや整理が主な内容だった。
紅葉はなぜそれにしたのか聞くと、掲示板の一番最初に書き込まれていた事、時間を置いて再投稿されていた事が主な理由だと西小路は答えた。
「下に流されないように時間を空けて書き込むくらいだし、まだ誰も手伝いに来てくれてないんだと思う。それに古書店なら、僕の研究に使えそうな本にも出会えるかもしれないからね」
西小路はその場で書かれていた番号に電話を掛け、次の日曜日に手伝いに行く旨を電話の相手に伝えていた。