#10(完)
翌日の月曜日、必修科目のドイツ語の講義中。いつもの席並びの三人。そして、いつもの授業態度。紅葉は真面目に教授の話をノートにまとめている。西小路は探偵業務の事を考えながら、講義内容を簡潔にノートに書き写す。かやのは当然、爆睡。そんなかやのの方を見つめながら男性教授は睡魔を誘発するような話し方で講義を進める。
「―――で、前回の講義でも話しましたが・・・・・・」
教授はホワイトボードにアインシュタインの名言を日本語で書き、爆睡しているかやのを指名した。しかし、当のかやのは口の端から涎を垂らしてまったく反応しないので、かやのの隣に座っている紅葉に、彼女を起こすように教授が指示をした。
「かやのさん、かやのさん、起きて下さい」
「んがっ。・・・・・・ふあぁぁあ。何だ? もう終わったのか?」
紅葉がかやのを揺すって声を掛けて起こすと、大きく伸びをして間延びした返事をするかやの。
その反応に苛立った様子の教授はホワイトボードをバンバンと仰々(ぎょうぎょう)しく叩きながら、「ここに書かれている言葉をドイツ語に直して、更にそれについて自身の意見を答えよ」とドイツ語でかやのに問い掛ける。
「かやのさん、これを・・・・・・」
紅葉は教授が話していたドイツ語を自分が聞き取れた範囲内で翻訳。それを元に言っている事を自分なりに意訳してノートにまとめる。それを隣であくびをしながら、気怠そうに立ち上がるかやのに見せようとした。
だが、かやのはそんなものは必要ないという手振りで、本物のドイツ人と遜色ない程の流暢なドイツ語で答えはじめた。
「人生で最良なものはお金で得られるものではないだぁ? んなワケあるかぁ!」
居眠りしていた生徒を釣り、晒し上げて恥をかかせる事を想像していた教授は、その結果に裏切られた。かやのがペラペラと答え、更にそのまま彼女の持論を展開しはじめた事により、教授はポカーンと口を開けて、呆気にとられていた。
それは周りの生徒達も同じだった。特にその中でも、紅葉は目を丸くしてかやのを見つめていた。
ハッと我に返った教授は、かやのの持論に自分の意見を述べ、それに再び彼女が答える。そうしてまるで教授とかやののマンツーマンディスカッションの様な論争が講義室内に響き渡る。それも両者共に全てドイツ語で、ある意味内容の濃い授業となっていることには違いない。
「―――で、だ! 確か~・・・・・・エーリッヒなんたら~とかいう奴が言ってたろ? 『充分な金を持っていれば、いい評判は自然と立つものだ』ってな。むしろ俺はそっち側だ‼」
そう堂々と教授に言い放ったところで、講義の終了を告げるチャイムが鳴った。
第二話『春の星は、おぼろに柔らかい』完
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次回、第三話『スプリング・ハリケーン』
お楽しみください。