#7
大型ショッピングモールの『みのおモール』に近づくにつれ、外の広場から綺麗なピアノの音色が聴こえてきた。音のする方に向かうと、かなりの人だかりが出来ていた。そして、その人だかりのほとんどが、スマホをその音の方に向けて録画・録音していた。
「何だろう、この人だかり・・・・・・それにこのピアノの曲・・・・・・」
「聴いたことが無い曲ですけど、とても綺麗な曲ですね・・・・・・」
実は自身も幼少期からピアノをやっている紅葉だが、自分より遥かに高い技術や表現力、そして何よりもその音の世界に引き込まれそうになる幻想的な曲調に聴き惚れていた。
純粋にどんな人がこれを弾いているのか気になり、人の壁をかき分けて二人がピアノに近づくと、そこにはかやのがグランドピアノで曲を奏でていた。
「かやのちゃん⁉」
「かやのさん⁉ 何で⁉」
西小路と紅葉は思わず声を荒げてしまい、周囲から「シーッ」と注意を受けて、二人は慌てて周りに頭を下げる。
何故、かやのがそこでピアノを弾いているのか、疑問に思った二人はかやのを眺めていた。だが、すぐにその疑問は解消された。
かやのが弾いているピアノには、
《何か困った事があれば、探偵事務所トリックスターフォックスまでご相談下さい》
と複数の色のマジックでカラフルに書かれたスケッチブックが立てかけられていた。更に、その横に二人が作ったチラシも張られていた。
そんな二人に気付いたかやのはチラッと二人の方に視線を流し、すぐに何事も無かったかのようにピアノに視線を戻して曲を弾き続けた。
西小路と紅葉の二人は観客と共に、かやのの演奏を最後まで聴いていた。