#5
それから数日後の夜、紅葉の自室にて。
「どうしてかやのさんは、あんなに不真面目で冷たい人なんでしょうか。西小路さんの昔からのご友人だと聞いていましたのに・・・・・・蓋を開けてみれば本当に適当で我儘で。今日だってチラシが完成したからせっかくお見せしたのに、『ふ~ん』の一言だけって。まったくひど過ぎますわ。ねぇ、石丸さん?」
紅葉は自室のベッドの上で、石丸を抱き上げて不機嫌そうに愚痴をこぼしていた。石丸は前足で紅葉の腕をペシペシ叩きながらじゃれている。そんな石丸のじゃれつきにクスッと笑い、西小路と過ごした時間をふと思い出した。
「でも・・・・・・ここ数日はなんだか久しぶりに楽しかったですわ。こんな気持ちはいつ振りでしょうか・・・・・・う~ん、小学生以来かしら?」
紅葉は意外にも交友関係が少ないようで、西小路と過ごしたこの数日間は充実した日々になっていたらしい。ここ数日で急に仲良くなった西小路の事を想像していると、映画のお姫様のような妄想が広がり始めた。なんとも言えない甘酸っぱい感情に、頬を染めながら石丸を思い切り抱きしめて一人盛り上がり、そして夜は更けていく。
翌日、日曜日。探偵事務所予定の部屋の中にて。先日に購入した家具類が昼前に届くので、今日はその前に部屋の掃除をする事になっていた。
「おはよう・・・・・・って、紅葉ちゃん大丈夫⁉ 目のクマ凄いけど・・・・・・」
「あっ、おはようございます、西小路さん。ちょっと昨夜一人で色々想像してしまって・・・・・・っていえ! 何でもありませんわ! 大丈夫です!」
「大丈夫なら良いんだけど・・・・・・無理はしなくて良いからね? でも今日はありがとう。本当に助かるよ」
前日に西小路との事を妄想していた紅葉は悶々(もんもん)としたまま夜を過ごし、そのまま結局朝を迎えていた。その為に寝不足で、それが顔にも表れていた。体も重く感じていたが、西小路の一言で不調が全て吹き飛んだ。
「この部屋がどんな感じに変わるのか、今からワクワクするよ」
「きっと素敵な事務所になりますわ」
二人は探偵事務所予定の部屋に入り、机と椅子しかない殺風景な室内を見渡して、これから届く家具を想像して笑みを浮かべていた。