#5
一旦休憩ということで、リビングルームに場所を移して、ティータイムをしている。明は先ほど紅葉に気付いたのであろう、さっきとは打って変わって彼女に媚びへつらうように接待しながら、自社との商談を持ち掛けている。
「先ほどはお見苦しいところをお見せしてしまい申し訳ありません。小野原様にはくれぐれも。それと、新商品を開発した際には是非とも我が社の生地を使って頂ければ―――」
紅葉は苦笑いで適当に相槌を打っていて、困っている様子が窺える。
「は、はい・・・・・・はい・・・・・・あ、はい、父の方に伝えておきますわ・・・・・・」
そんな紅葉をよそにかやのは、ジュースをストローで飲みながら窓の外を眺めていると、赤いオープンカーが屋敷の方に走って来るのが見えた。そして、玄関近くの空き地に停車すると、車から四十代と思われる女性が降りてきた。
美樹はオリヴァーと何か話しており、透はバーカウンターでウィスキーをロックで飲んでいる。
そして西小路はというと、書斎から先ほどの杖を持ってきており、柄の部分を捻ったり、引っ張ったりして、杖に何かないか集中して探っているようだった。
そこに先ほど車から降りてきた女性、眞紀子が部屋に入ってきた。彼女は室内を見渡す。
「あら、今日は随分と賑やかだこと」
眞紀子に気付いた明が彼女に手招きをして、紅葉がこの屋敷に来ている事を眞紀子に気付かせる。すると、眞紀子も急に声を高くして、紅葉に会釈しながら近づく。
「まぁ! 紅葉お嬢様、お久しゅうございますわ。三年前の社交パーティーの場で。オホホホホ」
紅葉に必死にゴマを擦る二人の様子は、先ほどの透の言葉を借りると、どっちがハイエナだか分からない状況だ。そんな二人を見て、
「うわー・・・・・・アイツら必死だねぇ」
と、かやのがボソリと呟いた。
美樹がさっきから西小路が杖をいじっているのが気になったらしく、声を掛ける。
「先ほどからずっとその杖を調べてばかりですが、それは足が不自由になった父が普段愛用していたもので、杖なら他にも倉庫の方に保管されて―――」
すると西小路が杖を捻った時に、杖からガチャリと何かが外れる音がした。西小路はゆっくりと杖を上下同時に引っ張ると、柄の部分から剣を鞘から引き抜くかのように、40㎝くらいの複雑な形状の金属棒が姿を現した。その棒はまるで長い鍵のようだった。
「やっぱり・・・・・・」
「こんな仕掛けが⁉」
目の前で杖の仕掛けを解かれ、美樹はひどく驚いていた。
「まさか・・・・・・この杖があの扉の・・・・・・だが、どうして」
オリヴァーもこれには驚き、西小路に駆け寄ってきた。かやのも仕込み杖を見て、納得していた。
「なるほどな。その杖は暗器みてぇな作りしてたってわけか」
周りも西小路の謎解きに気付き、ぞろぞろと集まってきた。
「そうだね。普段は単純に捻ったり引っ張ったりした程度じゃ何も起きないただの杖だけど・・・・・・決まった手順通りに動かすと、暗器のように隠された武器が出てくるような、そんな仕組みだったようだね」
「西小路さん、お手柄ですわ!」
西小路の推理に紅葉は手を叩いて喜んだ。
『この青年は・・・・・・』
オリヴァーも西小路の着眼点や洞察力、発想力に、驚きを隠せないでいた。
「で、でかしたぞ、小僧! さっそく書斎へ行って、あの扉に試してみようじゃないか!」
明は身を乗り出すように、リビングルームの入り口の方を指さす。眞紀子も早く金塊が見たいのだろう、
「そ、そうね! あの扉の先に残りの金があるはずだわ! 早く行きましょう!」
と、鍵を持っている西小路を急かす。