#2
探偵事務所トリックスターフォックスにて。応接間に西小路と二十代後半くらいの女性の相談者が座っている。その相談者は美樹だった。
「粗茶ですが、どうぞ」
紅葉が美樹にお茶を出す。その後ろのバーカウンターの方で、かやのがロープの玩具で稲壱と遊び、石丸の腹も空いた手で撫でていた。
「あれから何日も父の書斎を探したのですが、本棚の裏に隠し扉があるのを見つけられただけで・・・・・・。その扉も金庫のように頑丈で、しかもかなり分厚いようで、業者の方を呼んでも鍵は特殊な形状で、その鍵が無いと開けるのは不可能だと言われました」
不安そうな顔で話す美樹に、西小路は何かを考える素振りで「なるほど・・・・・・」と一言。
「まるでミステリー小説ですわね」
と、紅葉も頭を悩ませながら呟く。
「もしかしたら、その書斎に扉の鍵も隠されているかもしれませんね」
「父の書斎の調査をして謎が解けたら、私でお支払い出来る分は十分にさせて頂きます。・・・・・・もうこれ以上、血を分けた兄弟同士でいがみ合いたくないのです」
「・・・・・・分かりました。その依頼、お引き受けします」
薄っすら涙を浮かべる美樹の姿に、西小路が真剣な眼差しで依頼を受けた。
それから美樹の車で、西小路とかやの、紅葉は、彩都の屋敷に向かった。長女の眞紀子が動物嫌いという事で、稲壱と石丸は事務所で留守番させたようだ。
屋敷に着くと、そこは紅葉の家と同じくらいの大きな豪邸が立っており、側には滝が流れ、小さいながら滝つぼもある。そして屋敷の裏には畑と用具入れ、さらに肥溜めもあり、どうやら前当主の琥太郎氏は本格的な農作業を老後の趣味としていたようだ。
玄関に入ると広間の絨毯が高級感を放ち、かなり目立っていた。前当主は繊維卸問屋で成功し富を得て、昔は箕面船場繊維卸商団地を支えた会社として大きく貢献していた。一同は書斎への移動中、美樹からそうした説明を受けていた。
例の書斎に案内された西小路、かやの、紅葉の三人。書斎の中は以前よりも調べ尽くしたようで、古書物なども床に散乱していた。
美樹は本棚に近寄って、本を探すように指でなぞる。目当ての本を見つけると、その一冊を深く奥へ押し込んだ。すると本棚が横にゆっくりとスライドし、奥に隠し扉が現れた。
「これが例の扉です」
かやのはコンコンと扉をノックして厚さを計っている。
「こりゃ流石の俺でもブチ破れねぇわ」
西小路も鍵穴の中にペンライトの光を当て、覗き込む。なるほど確かに厄介な構造らしい。無数の棒状の出っ張りが中に張り巡っている。しかもかなり奥が長い。普通の鍵では無理だろう。
「これは確かに・・・・・・」
西小路はペンライトをこめかみに当てて思案する。それから書斎の中を見渡す。とにかく探してみなければどうにもならないと、紅葉もテーブルのランチョンマットをめくったり、ショーケースに飾られた人形など、鍵の形状をしている物はないかと探してみた。
「駄目ですわね・・・・・・。見逃しが無いかと思いましたが、やっぱり既に探し尽くされていて、特にこれといった物は見当たりませんわね」
そんな紅葉や西小路を尻目に、かやのはというと、
「お、パズルじゃん」
退屈なのか、一人パズルで遊び始めた。