表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リアドラ ーReturn to the Draftー  作者: Tsuyoshi&松山亮太
第十一話『黄金牡丹』
102/128

#1

 嵐の夜。暗雲が渦巻き、激しい雷が鳴り響く。(いな)(びかり)に照らされた一軒の屋敷。箕面市彩都の山奥にひっそりとそびえ立つ、豪邸がそこにあった。

 屋敷の書斎で、国際弁護士のオリヴァーは、四人の相続人達の前で、淡々と前当主の遺言書を読み上げていた。オリヴァーはイギリス人で、正に中年の英国紳士といった風貌である。この屋敷の前当主『(にしき)(おり)()()(ろう)』が生前より雇っていた顧問弁護士でもあった。

 オリヴァーの話を、長男の(あきら)は椅子にどっかりと座って横柄な態度で聞いており、その横で長女の()()()は赤いネイルを気にしながら聞き流し、次男の(とおる)は窓の外を見ている。唯一、末っ子次女の美樹(みき)だけは、真剣な眼差しでオリヴァーの話を聞いていた。


「―――遺産はこの部屋に(たく)した」


 オリヴァーは遺言書を読み終えると、前当主の机の引き出しを預かっていた鍵で開ける。そして引き出しの中から12.5㎏の金の()(ぼう)を取り出し、


「遺言書と一緒に保管されていた物です」


 そっと机に置いた。(きん)(かい)()()たりにして、眞紀子の目の色が変わった。美樹は周りを見渡すと、透が「それだけ?」と、()(げん)そうな顔をしてオリヴァーに尋ねる。オリヴァーはコクリと頷く。


「そんな訳ないだろう! 親父は(きん)を買い込んでいたのを、俺は知ってるんだ!」


 明は全身を震わせながら、勢いよく椅子から立ち上がり、「貸せっ!」と、オリヴァーから遺言書を無理やりひったくると、目を皿のようにして何度も内容を確認した。それから、遺言書を机に叩きつけて、


「この部屋に託しただと⁉ ふざけやがって!」


 と、書斎の本棚や引き出しを乱雑に探し始めた。すると眞紀子がそんな明の行動を見て、


「あらあら・・・・・・じゃあ私はとりあえずそこの(きん)を頂こうかしらね」


 と、机の金塊に手を伸ばす。


「姉さん、それも遺産の一部じゃないか。分ける権利は僕にもあるでしょ?」


 透がチラッと眞紀子の手を(いち)(べつ)する。すると後ろでそのやり取りを聞いていた明が、


「じゃあお前達は残りの(きん)が見つかっても相続放棄でいいんだな⁉」


 眞紀子と透の方に目もくれず、怒鳴るように言い放つ。


「それとこれとは別よ!」

「そうだよ! そもそも残りの(きん)だなんて、一体この部屋のどこにあるのさ⁉」


 書斎を見渡す限り、古書物がびっしり入った本棚や、前当主が大切にしていた(りょう)(じゅう)、愛用していた杖や、骨董品。それに作りかけのパズルなどぐらいしか目につかない。特に金目のものは見当たらず、前当主の遺品が点々と置かれているだけの部屋だった。


「大体、パパはガラクタばかり集めて・・・・・・」


 透は骨董品を手にしながら呟くと、


「親父の会社に何の(こう)(けん)もせずに、ただいるだけの役立たずなお前と同じだな」


 と、明が透に皮肉たっぷりに嘲笑する。


「兄さんだって、パパの会社継いだ割には、全然成果出せてないみたいじゃないか」


 ムッとした顔で透は兄に言い返した。


「なんだと‼」


 弟に言い返され、激昂した明は透の胸ぐらをグイッと掴み上げた。その様子を眞紀子はニタリと口を歪ませながら静観している。


「明兄様も透兄様も、もうやめて! 皆で探して、皆で均等に分けたらいいじゃない!」


 醜い兄弟喧嘩に耐えられなくなった美樹が声を荒げた。睨み合う明と透、不敵な笑みを浮かべる眞紀子。そして三人を不安げに見つめる美樹。


「もしかすると・・・・・・これは大旦那様からの皆様へ託した何らかのメッセージで、真の遺言書と遺産は他にあるのかもしれませんね」


 それを少し離れて見ていたオリヴァーが静かな口調で、その場にいた全員に意味深(いみしん)な言葉を投げかけた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ