表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/10

4.生きる価値

今回、残酷描写がキツいです。

(自傷行為、差別、虐めなど)

苦手な人は目を覆い隠して、人差し指の隙間から読んでください。


ご報告が有りますので、時間がありましたら、活動報告、

覗いて頂けると有難いです。

(物語に深く関わることでは無いので、そこまで重要ではないです)

「魔法の欠点は何でしょう?」


マオ先生が、チョークを握りながら聞いた。

入学から3日。ようやく授業が始まる。

最初の質問はコレだった。

手を挙げたのは、数人。その中のセレンという生徒が当てられた。


「声を出して、呪文を詠唱しないと発動しない事と、

 魔力を持っていないといけないと言う事です。」


「大正解。」


マオ先生は、あっさりと頷いた。こんな当たり前のことを聞いて、

何がしたいのだろうと、クラス全員困惑していた。


「つまり、魔法を使えなくさせるためには、

 喉を掻き切れば良いんですよ。」


マオ先生は、親指で首を切る仕草をした。

あまりに淡々と言ったので、静かな狂気を感じてしまった。


「魔物と戦う時、必要になって来るのはこの部分です。

 魔物は本能で動きますが、私たちの弱点を知っています。

 魔法を封じられないようにするために、喉は絶対に守って下さい。」


このミクスリース学園は、基本的に魔物と戦う時について教えたり、

魔法の扱い方、伸ばし方など、幅広く魔法を教わることができる学校。

しかし、命を守ることを教わると思っていなかった。

魔物と戦うと言う事は、命を賭けると言うことである事を、

今一度深く認識する。


「では、まずは実践編です。先生と、1対40で戦いましょう。

 君たちは、魔法あり、異能あり、武器あり。

 先生は、魔法のみです。」


クラスが、一気にざわめいた。

眠たそうに大欠伸していたイツキでさえ、目を丸くしているほどだ。

気でも動転したのか、と問いたくなった。

先生といえどただの人間で、こちらも優秀成績者40人がかき集められた

クラスだ。先生が、こんなことを見落としているはずがない。

つまり。

彼は勝てると思っているのだ。なんでもあり、殺す気の40人に。


先生は、笑った。

この前、先生の笑顔は、暖かく純粋だと思った。

確かに、その考えは間違っていないと思うのに。

心が、本能が、彼の雰囲気に戦慄していた。




ジャージに着替えてグラウンドに出ると、

既に皆やる気なのか、みっちり準備体操している様子が見られた。

多分、あんな舐めた事を言われて、カンに触ったのかもしれない。

俺はジャージのフードを深く被って、同じく準備体操。

立ちながら地面に両手を付けて身体をほぐしていると、

長袖ジャージ姿のイツキが歩いてきた。


「お前、地面に両手付くとか身体柔らかすぎだろ。」


と顔を顰められる。そんな風に俺を揶揄するイツキだが、

彼だって両手指ちゃんと付くのでそんなに変わらないと思う。

まあ、そんな事はどうでも良いのだ。

ただ、コイツがいつフードを下ろしてくるか、

それにしか集中できない。

しかし、普通の日常会話をしていても、

彼がそのような仕草をしてくる事は無かった。


「はーい!皆さん集合!」


先生が集合を掛けるまでの5分間、

いくらでもチャンスがあったはずなのに。


「なあ、イツキ。お前、フード下ろす悪戯……」


「ん⁇ もしかしてやって欲しいの?」


「いや、そうじゃなくて………」


なんと言えばいいのか分からない。

怪しんでた事がバレたら怒られそうだし。

かと言ってこのまま誤魔化したら再犯されるかもしれない。


「ああ、あれね。お前、苦手って言ってたじゃん。

 だから止めた。ってか早よ行こーぜ。」


そう言って、イツキは駆け出してしまう。

苦手って言ってたから、止めた。か。

もしかしてイツキ、人との距離感気にするタイプなのか?


「ユキトくーん!どうかしたのー?」


遠くから、クレアさんの声がした。

手をブンブン振っていて、それを見てツバサが呆れている。


「今行くー!」


声を張って手を振り返し、目の前もイツキの背中を追いかけた。




「はい。じゃあ、やりましょうか!」


先生が、パンっと手を叩いて言った。

一気に空気に緊張が走るが、話の張本人がフワフワしているので

違和感がすごい。


「よーい!スタート!」


その言葉の次の瞬間、先生の姿が消えた。


『魔法を封じられないようにするために、喉は絶対に守ってください。』


殆ど本能だった。

俺は、後ろに仰け反って、先生の一撃を避けていた。

あまりの速さで放たれた手刀は、俺の頬の一部を引っ掻いた。

バック転で距離を取り、チリチリと痛みの走る頬を押さえると、

少しばかり手に血がついた。


「はい、避けられた人〜!」


手を挙げたのは、俺と、イツキ……だけ。

皆んな喉元を抑えて咳をしている。

ずっと黙っているのは、超絶的スピードから放たれた地獄突きで、

声帯がヤられたからだ。


「あれれ。38人リタイヤ?それは残念」


先生は、残念そうに俯く。

その瞳には、悲痛と怯えが湛えられている気がした。


「ほら、武器ありですよ。痛みに悶えていたら、

 魔物は隙を見て攻撃してきますよ。」


先生の言葉に呼応するように、ローウェルさんが立ち上がった。


「ヒール!」


酷いガラガラの声で、頭の中でそんな音に変換するのが大変だった。

キチンとそれは魔法の呪文であると認識されたようで、ローウェルさんの声は

治っていた。


「お、1人復帰ですね。」


先生が楽しそうに笑う。皆んなもヒールを唱えて喉を治そうとしているが、

声を出そうとすると痛いのか、声が治った人はクレアさんとツバサくらいだった。


旋風が巻き起こった。


先生の魔法かと思ったが、先生も驚いたように目を丸くしている。

踏ん張らないと吹き飛ばされてしまうような、強い風。

枯葉が舞う。その中に、銀に鈍く光る物。

大きさ、形、色。記憶から、それに該当する物を俺は知っている。

ーーーーーナイフ、短刀。

その判断を下し、そのナイフが今何処に向かっているか確認する。


白髪少女。クレアだった。


気づけば、俺は『異能』を使っていた。

異能名、時裂刃。世界の理に歪みを発生させ、

一瞬だけ自分の中にある『時』を切り裂く『異能』。

時の概念が消えるのは、世界が歪みを無理矢理修復するまでの約3秒。

ただ時を止める異能と違って、敵に世界の時間の歪みを悟られると

相手にも動かれてしまう。

しかし、今の状況では何の問題もない。相手は無機物だからだ。

止まった世界を駆け、ナイフの刃に背を向ける形で、クレアさんを抱き締める。

歯を噛み締め、痛みを最小限にするために身体を強張らせる。

時の概念が、修復した。

ナイフが動き出す。

しかし、ナイフは俺に牙を剥く寸前で、何かに阻まれ、

甲高い音を立てて弾け飛んだ。ーーーガードの魔法だ。

弾かれたナイフは地面に突き刺さり、同時に魔力のカケラになって、

光を散らし消えた。ここに残っていたのは、緊迫した空気だけ。


「大丈夫ですか⁈」


先生が大股で駆けてきて、蒼い顔で問い詰める。


「怪我や、身体の不調は……⁈」


「俺は無いです。」


腕の中にいるクレアさんを見下ろすと、状況が理解できていないのか、

唖然としている。

やがて身体中が震え出し、立って居られなくなったのか、

膝から地面に崩れ落ちた。


「クレア!大丈夫⁈」


駆けつけたのは、マオ先生とツバサと、俺とイツキ、だけ。

周りの人を見ると、皆んな笑っていた。

『なにあれ。ナイフ?』『誰がやったか知らないけど良い気味』

『ざまあみろ。半分魔族が此処に居んじゃねーよ』

『被害者ヅラして偉っそうに。お前らが居るだけでこっちに被害が及ぶんだよ。』

『さっさと死ねよ。半端者者』『奇形児とか気持ち悪い。』

『ヴァンパイアとか狼って人殺すんでしょ?』『この人殺し。』

『混血は出て行け。』『魔族は消えろ。』

『出て行け。』『出て行け。』『出て行け』『出て行け』

『でていけ』『デテイケ』『デテイケデテイケデテイケデテイケ』



「い、いやあああああああああああああああああああああ‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎」


絶叫だった。クレアさんは叫んだ。

ツバサは口元を押さえて泣いた。

イツキは呆然と立ち尽くし、俺は震えることしか出来なかった。

手の震えが、身体に伝わって奥歯がカチカチと鳴った。


悔しい。


混血に生まれたくて生まれた訳じゃないのに。

生まれながらにして嫌われて、蔑まれて、人権を奪われて。

どうして。

何で。

何がここまで人の心を、世界を歪めた?

魔族と人間。その間には何がある?

俺たちとアイツらは何が違う?

分からない。

分からないからもっと悔しい。

苦しい。

辛い。


「何でだよ。何でッ!何でッ!何でッ!これだから、人間なんて嫌いだ!

 大っ嫌いだ!」


言いながら、イツキは自分の服の袖を捲った。

そこには、白いところが見つけられない程の、傷跡。

その長い犬歯で、自分の腕を喰い千切った。


鮮血が噴き出し、血はイツキの周りに収束する。

異能だ。呪文を詠唱していない。


一部のヴァンパイアが持つとされる、自分の血液を操作する異能。


「やめなさい!イツキ・キャシディリア!」


「黙れ純血‼︎‼︎‼︎」


先生の制止は、その簡潔な言葉で振り払われた。

黙れ純血。その言葉に、先生は酷く傷ついたように押し黙った。

瞳が不安定に揺れ、息を詰まらせていた。


イツキが異能で操った血を人間に向けた。

血は固まってナイフのように鋭利になる。


「全員、今此処で殺す。」


イツキの簡潔な宣言。

その言葉と共に、血のナイフが空気を切り裂き進んでいく。


瞬間、低く優しく、それでいて強い声が響く。


「眠れ!」


広く発光した魔法は、イツキのこめかみ辺りを貫いた。

イツキの異能が解除され、血液が地面に撒き散らされる。

イツキは地面に倒れ込み、動かなくなった。


「先生……。」


「精神系魔法、眠りの魔法です。」


先生は、死んだように眠るイツキを負ぶった。


「授業は中断します。残りは自習とします。

 ……皆さん、説教される覚悟をしておいて下さいね。」


先生の声は、あまりに底冷えしていて、思わず後ずさった。

先生は、とても悲しそうに俺達に笑いかける。


「ツバサさん。クレアさんを寮まで送ってください。家からの通いですが、

 一旦休ませてあげて欲しいです。寮監さんに事情を説明すれば、空き部屋の

 一つや二つ、使わせてくれるはずです。」


「分かりました。……行こ、クレア。」


ツバサは、クレアさんの肩を支えて歩き出した。

俺も一緒に行こうと駆け出すと、先生に引き留められる。


「ユキトさん。話があります。保健室まで、一緒に来てくれますか?」


「……分かりました。」


俺は、何をやっているんだろう。

もし、俺が混血じゃなかったら。

クレアさん達が混血である事を公表しなくて済んだかもしれない。

楽しく、こんな事件なんて起こらず、平和の過ごせたかもしれない。

俺が混血じゃなかったら。

俺が生まれて来なければ。

俺が、この世界に居なければ。

俺がーーーー。


あれ。

生きているだけで周りに害を与える俺の、生きる価値って何。


その疑問の答えは、ずっと昔から、沢山の人に言われてきた。


『俺に、生きる価値は無い』


サブタイトルから察した人も多いのでは?

ユキト君が、自分の生きる価値を見失ってしまうお話でした。

何故、此処まで魔族と人間に亀裂があるのか、また話を進めて行く中で

明らかになります。


ユキトの異能は、時裂刃と書いて「じれつじん」と読みます。


次回、ユキト君が、本音を溢します。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ