10.校外授業 前編
校外授業の始まり!
楽しそうですね!(暗黒微笑)
目覚めると、コーヒーの匂いがした。
ほろ苦く、深い香り。
目を開け体を起こし、スマホを掴んで時間を見る。
朝の5時だ。
今日は校外授業。
早起きしようと思って目覚ましを掛けていたが、
それよりも30分ほど早く起きてしまった。
見ると、机にカップを置いて、優雅にコーヒーを啜る
イツキがいた。
基本的に寝坊体質の彼が、俺より早く起きているなんて、
明日は槍でも降るのだろうか?
「槍降らせてやろうか?」
殺意を察知した。
眠くて鈍い体を跳ね上げさせ、地面に着地する。
俺のベットの真上には、イツキの槍があった。
「お前、思考を読む異能なんて持ってたのか。」
「馬鹿か。全部口に出てたわ。」
眠いからか、お口のチャックが弱かったらしい。
今度からは気をつけねば。
「で、なんでそんなに早起きしてるんだよ。」
「べっつにい。理由は特にないけど。」
嘘だな。
校外授業、倒した魔物の数が1番多いチームが優勝らしいから、
勝負事となって燃えてるんだろう。
かく言う俺も、結構やる気が高まっているのだけれど。
「でも不機嫌だな。なんかあったか?」
「あいつが気に食わねえ。」
顔を顰めたイツキは、コーヒーカップをぐいっと呷った。
あいつ、と言うのは、間違いなくセレンさんのことだろう。
純血。真面目そうで純粋な人。
そういうイメージしか持てない感じの、普通の女子。
イツキからすれば、その普通な感じが不気味なのだろうか。
いや、ただ単に純血の人間だからだろうけど。
ヴァンパイアは人間への敵対心強いし、
仕方ないのかもしれない。
「気に食わなくても、連携取れるくらいには
仲良くなっとけよ。」
「俺を誰だと思ってんだ。猫被りきってやるよ。」
ニヤリと歪めた口元。
それに少し慄いてしまったのは、俺のせいじゃない。
「おはようございます。皆さん、やる気満々ですね!」
先生が笑顔で言った。
ふわふわした先生の雰囲気とは対照的に、
生徒の空気はピリピリしていて、対抗心が燃えているのが一目瞭然だ。
「おはようございます、ユキトさん。」
声を掛けられて振り向くと、そこには俺より一回り小さい身長の
赤毛があった。
「あ、おはよう、セレンさん。」
慌てて返すと、セレンさんは優しく笑った。
挨拶返すのが早くなったなあと、自分の成長を実感する。
彼らと一緒にいるようになって、コミュ力がほんのちょっと
上がったかもしれない。いや、それは自惚れか。
セレンさんの武器を見てみると、
両手に持つタイプのスレッジハンマーだった。
…………意外ーーー。
いや、偏見の目で見るのは良くないと思うが、
セレンさんって絶対魔法中心に使う人だと思ってたわ。
こんな華奢な子がスレッジハンマー振り回せるの?
想像できないだが。
「ユキト、おはよ。」
「あ、ツバサ。おはよ。」
今日はズボンスタイルらしい。
軽装鎧を装備していて、剣を持っていたら
the・女騎士って感じだが、彼女の武器は杖だ。
ツバサの身長くらいありそうだが、
あまり重そうにしている素振りは見えない。
1番上についている水晶とか結構重そうだけど。
「ユキト君!おっはよー!」
クレアの元気な声が響いた。
いつものパーカー姿と違って、黒一色のワンピースだった。
生地は厚そうで、軽装鎧の銀がよく映えている。
腰の茶色のベルトにはレイピアが挿してあって、
姫騎士というイメージが完全に当てはまった。
「おはよう。今日も元気だな。」
返すと、クレアは「うん!」と大きく頷いて、
ツバサに抱きつきに行った。
2人は本当に仲がいいなあ、と横目で見ながら
イツキを探す。
彼は、珍しく縁石に座ってた。
「どうしたんだ?もうみんな集まってるぞ。」
「知ってる。でも、あいつの前じゃ猫被んねえと
いけないじゃん。一緒にいて疲れるから、
集合かかるまでここにいる。」
イツキは、今日朝淹れていたコーヒーが入った
魔法瓶の水筒に手をかけながら呟いた。
頑固な彼に呆れながら、無意味と分かりつつも
一応言っておく。
「そんなに警戒しなくても、別に悪いやつじゃないよ。」
「どうかな。どうせ、ローウェルの二の舞だろ。」
それを言われて、頭が一瞬湧き上がった。
俺に対して笑顔で接せれる人間が、ローウェルの二の舞?
「お前、ふざけるのも大概に___」
「ユキトさん、イツキさん。」
女の子らしい高い声を掛けられて、我に帰った。
そこには、張本人のセレンさんがいた。
少し巻かれた赤毛をするすると指で弄りながら、
彼女は申し訳なさそうに呟く。
「もうすぐ出発するそうですよ。」
「教えに来てくれてありがと。」
さっきの冷たい態度など、どこへ吹く風。
ニコニコとした一見優しい笑顔を貼り付けて、
イツキは立ち上がった。
俺に一瞬だけ向けてきた瞳は冷たく、
そんな態度にイラつく。
俺は、間違ったことは言ってないだろ。
ため息を吐きながら、彼らの後を追った。
「へえ、セレンちゃんて、貴族出身なんだ!」
「はい。中級貴族なので、そこまで地位は高くないですし、
私は魔法があんまり得意じゃないので、落ちこぼれって
言われてますけど……」
「魔法だったら、練習すれば伸びるよ。ね、ツバサ。」
「そうね。今度教えるわ。私、魔法使いだし。」
「本当ですか⁈」
街の外に出て数十分。
セレンさん中心に話が進んでいる。
クレアが話を持ち出して、セレンさんが答えて、
イツキが広げて、ツバサが共感する……
みたいなループをずっとやっている。
コミュ力のない俺は完全に蚊帳の外。
入ろうと思ってもストレスなので、俺は、
先生からもらった魔石を眺めていた。
魔石は、魔力を固めて作る石だ。
魔石の色は魔力の色と同じになる。
色が濃く、黒ずんでいるものほどレアで強く、
さまざま種類の魔法を使うことが出来る。
真っ白の魔力はレアだが弱い。
1番多いのは暖色系の色だ。
そして、この魔石は先生の魔力を固めて作ったもの。
色は、完全な漆黒だった。
つまり、めちゃくちゃレアで強い魔力ということ。
本当に何者なんだ………。
魔石を光に当ててもキラキラしないし、
結構不気味だ。
魔石を壊すと先生が駆けつけてくれるらしい。
いわば、脱出用のボタンのようなものだ。
先生が駆けつけたら、どんな魔物だろうと
イチコロだろうし。
「あ、魔物だ!」
クレアの声と同時に、俺は腰のナイフに手を当てた。
臨戦体制を取るが、みんなニヤニヤ顔でこっちを
見ているだけ。
「ユキト君、戦いたすぎでしょ!」
「お前、本当に根っからの戦闘狂だな。」
「私もここまで反応速度速いとは思ってなかったわ。」
「ユキトさん、気張らなくても大丈夫ですよ。
5人もいるんですから。」
要するに、ずっと魔石を眺めて暇そうにしている俺に
魔物がいる!と言ったらどういう反応をしてくれるのか、
というドッキリだったらしい。
話には入れないのに、笑い者にされるなんて最悪だ。
今日の運勢、結構よかったはずなのに。
当たるも八卦、当たらぬも八卦だな。
ため息をつくと、クレアが焦ったように早口になった。
「その、怒ってる?ごめんね、」
「別に、いい。」
クレアは不機嫌だと判定してしまったのか、
少ししょげたように俯いた。
コミュ力もないし、実際俺は不機嫌だ。
引き抜いたナイフを仕舞わず、俺はペン回しの要領で
クルクルと回した。
空気が微妙になったが、別に俺は悪くない。
ドッキリ仕掛けたのが悪い。
……今日、だめだな。凄く身勝手だ。
自分が、凄く気持ち悪い。
この場にいるのがしんどくて、視線を凝らした。
魔物を発見して飛びかかり、腕を切り落として
敵の目に短剣を突き刺すと、息絶えたようで倒れた。
「ユキト君、はや!」
「流石だけど、危険だからやめてよね。」
ごめん、と謝りながら、俺は先生から貰った
紙を取り出して、魔物の名前を記入する。
正の線を一本引いて顔を上げると、
イツキと目があった。
ありえないくらいの冷たい瞳。
憎悪と妬みが混ざったような、暗い目。
すぐに笑顔に変わって、愛想を振り撒き始める。
なんなんだ。モヤモヤする。
返り血で汚れた上着を、ツバサの水魔法で洗う。
擦れば擦るほど、血の汚れは落ちて行くのに、
俺の心は一向に晴れる気がしなかった。
モヤモヤしますね。書いてて吐きそうでした(笑)
どっちも悪くないように私は見えるんですよね。
皆さんはどう思います?