1.入学
稚拙な文章ですが、読んでいただけたら嬉しいです。
タイトルは、そして世界は優しく『ひずむ』。です。
『ゆがむ』では無いのでご注意ください。
(前回投稿していると、これから残酷描写がかなり
増えてくる事に気づき、全年齢対象にしていましたが心配なので
R15を付けて再投稿する事にしました。
内容は何も変わっていないので、気にせず読んで頂いて大丈夫です。)
「見ろよ、あの耳と尻尾……。混血だ。」
「え、怖い。この学校って混血児の入学って認めてたの?知らなかった……」
「せっかく優秀な学校入れたのに、気分台無しだよ。獣臭いな。この教室。」
Aクラスと、簡素に書かれた木札が下がっている教室で、一人机に突っ伏す
少年がいた。
雪色の白髪、左の横髪には青色のメッシュ、深い海のような深蒼の瞳。
抜けるような白い肌。整った顔立ち。どれをとっても綺麗で、美形だった。
しかし、彼の元には誰も集まらない。
逆に、呼吸音を押し殺すようにしていて、
存在を消そう消そうと必死だった。
しかし、その類い稀なる聴力は、如何なる悪意の言葉も聞き取ってしまい、
惨めな感情が息をするたびに肺を刺すようだった。
彼には、獣の耳と尻尾があった。まるでパーカーのフードの中で縮こまった耳、
小さく丸め、イスの影に隠しているふさふさの尻尾。
いくら努力を積み重ねようとも、人間は目敏くそれらを見つけ、
怖いだの気持ちが悪いだの、バリエーションの少ない暴言で彼を叩く。
この世界で、混血の子供を作ることは犯罪ではない。
それが法を外れたのは二十年ほど前のことで、昔から根強く残る
純血主義の考え方が変わっていないだけだ。
差別の壁に立たされるのは、もはや常識であり、魔法とはまた違う特性を
持った『異能』に惹かれるものも少なくはないが、やはり絶対数は少ない。
そんな彼の両親は、『異能』に惹かれたでもなく、ただ純粋に恋をしたので
結ばれたので、まだ救われているのかもしれない。
入学初日で、これほどまでに嫌われていることに小さく絶望した彼は、
誰にも聞こえることがないように、乾いた笑いを浮かべていた。
「おはよう!」
意識の外で、そんな明るい声が響いた。
彼が顔を上げると、そこには一人の少女。
アルビノっ娘なのか、真っ白い髪に雪のような肌、紅の瞳。まつ毛は長く、
鼻筋も通っていて、唇はリップでも塗っているのか桜色でプルプルだった。
パーツ一つ一つが、小さな顔に綺麗に収まっていて、俗にいう、
『美少女』だった。
髪は背中まであるロングで、横髪は小さな氷の髪飾りで縛っている。
彼がずっと黙っているので、白髪の少女がきょとんと首を傾いだ。
彼の方も、わざと無視しているわけではない。
自分の噂は完全に回りきっているものと信じていたし、
誰も話しかけてはきまいと思い込んでいた。
その考えは、どうやら大外れだったらしい。
回らない舌で出来るのは、受け取った言葉を返す程度の事だけだった。
「おはよう。」
小さく返すと、彼女は満足そうに小さく笑った。
ぱっちりとした二重の瞳が彼を映した。
「おーい!セレナイトさーん!」
胸のリボンの二倍はあるのではないかというほどのデカリボンを
頭に乗せた少女が、こっちに走り寄ってくる。
この白髪少女は、すでに友達を作っているのか……と女子のコミュ力に慄いた。
茶と赤のチェックスカートは膝より上。スカート丈は校則違反だが、
それを指摘する勇気も気力もないので黙る。
そんなことを考えていたら、デカリボンが一瞬彼の方を向いた。
その瞳には、隠す気も感じられない、真っ直ぐな嫌悪が宿っていた。
急に、動悸が速くなった。悪意を浴びせられる恐怖。
目を逸らして、デカリボンの姿を視界の外に追い出し、パーカーのフードの
裾を握って深く深く被り直した。
「セレナイトさんさ、よくこんな混血と一緒にいられるよね〜。」
こんな混血。
悔しくて、グッと下唇を噛み締めると、血の味が口中に広がった。
でも痛覚なんてとっくに鈍くなっていて、ただ心の傷が深く抉られていく痛みだけを感じている。
もう辛い。逃げたい。教室を出て行こうと、腰を浮かせた瞬間。
「あはは、そんなことないよ〜。」
セレナイトさんは、心底可笑しそうに声を出した。
偽善なんて、やられればやられるほど惨めになるだけだ。
そんな小さな優しさも、鼻で笑い飛ばしてしまうほどに、彼は疲れていた。
「だって、私も混血だもん。」
空気が凍った。
声も出ない。ただ嫌悪が教室に充満していくということだけが分かった。
「はーい、みんな席についてー。」
その空気を一旦白紙に戻したのは、教室に入ってきた先生だった。
線の細い、黒髪ボブヘアの先生。四角い銀縁眼鏡の奥に光る瞳は漆黒。
春なのに、首まで覆うニットの白セーターの上から黒のジャケットを合わせており、センスが良い。
だが少し暑そうだ。
しかし、特に目を引いたのが、その銀縁の眼鏡。
シンプルな物だが、フレームの左側には鈴が付いている。
彼が愛想良く、首をこてんと傾げながら笑う度に、
チリンと綺麗な音を響かせていた。
「本日から、Aクラスを担当します。マオ・シィンイボウです。
気軽に、マオ先生って呼んでください。」
柔らかな笑顔。中性的な見た目なので、男か女か分からない。
そんな生徒たちを見かねたのか、「男ですよ」と自分から報告してきた。
クラスの女子のテンションが3トーンほど上がり、男子は一気に落胆した。
分かりやすい。
性別が割れても、殆どの生徒はその美しい見た目に見惚れていたが、
一部は気に食わんと言った様子で、そっぽを向いたり爪を弄っていたりした。
先生は笑顔を崩さず、クラスを見回した。
一回だけ目があって笑いかけられる。
俺は視線を下に向けた。あの優しい笑顔が、視線が。
ーーー嫌悪に変わる瞬間など見たくなかったから。
先生が出席簿を取り出して話を始めた瞬間、1人の女子生徒が立ち上がった。
「どうしましたか?ローウェルさん。」
ローウェルと呼ばれた彼女は、今日セレナイトさんと一緒にいた
デカリボンさんだった。嫌な予感が、冷や汗となって背筋を伝う。
「どうもこうもないです。なんで、このクラスに混血が?」
ローウェルさんは、俺を指差して言った。クラスの半数以上は、
「確かに」「おかしいよ」などと騒ぎ始め、一部生徒……セレナイトさん
などは気まずそうに下を向いていた。
「さっき私が話していたセレナイトさんも混血みたいですし、
嘘ついて人のように振る舞う彼らには、嫌悪感しか抱けません。
早くBクラス……いえ、退学させてください。」
退学、という言葉が出た瞬間、マオ先生は眉を顰めた。
その様子に怯むことなく、ローウェルさんは言葉を並べていく。
「私たち純血が世界を作っているのだから、これを求めるのは
当然の権利では?魔族の血が混じった偽物なんて、此処には要りません。
退学の要求は、純血としての当然の権利です。」
セレナイトさんは、真っ青な表情で俺に目配せしてくる。
それを半ば裏切るように、俺は視線を逸らした。
そんな中、1人の少女が真っ直ぐに手を挙げた。
「はい、ツバサ・カメリアさん。」
先生が、静かな声で発言を許可した。
「はい。」
彼女は凛とした声で応えると、ゆっくりと席を立つ。
セミボブヘアをハーフアップにしていて、髪には椿の髪飾り。
そして、特徴的なオッドアイ。右は紺碧、左は紅蓮の炎のような色だ。
吊り目だからか、瞳から出る光は言いようのない迫力があり、
ローウェルは息を詰まらせて黙り込んだ。
「この学校、ミクスリース学園は、混血児の受け入れを公式に認めています。
学校の校則にも、混血児の受け入れ可能と明記されています。
貴方がどんな偏屈な考えを持っていようと、私たちを退学させたり、
クラスを落とすことは出来ません。」
「私たち……ってことは、あんたも混血?」
流石、入試成績で40番目までの生徒が集められたAクラスの人間という
べきか、言葉の端々から揚げ足を取れるくらいの頭脳は持ち合わせている
らしい。
しかし、その事実を認めるつもりはない、というような意思が感じられる、
震えた声だった。
「ええ、そうですが何か。」
彼女は、椅子に腰掛けながら飄々とした様子で答える。
ローウェルは目を見開き、マオを強く睨んだ。
焦っているのか、振り向いた勢いで椅子が倒れても直そうとしない。
「なんでこのクラスに、混血が3人も居るんですか⁈
このクラスは!優秀な成績者!40人が集められているのに‼︎」
「おいおい、勘違いはよせよ。」
教室の隅の茶髪男子が、椅子から飛んだ。
着地はふわりとしていて、まるで本当に宙を飛んだような……。
いや、実際に飛んだのだ。
呪文を暗唱しなければならない『魔法』ではなく、
混血児や魔族しか持たない、『異能』を使って。
「俺も混血だから、4人、ね。」
あどけない笑顔。しかし、それには、まるで反転魔法がかけられているかの
ように、ローウェルも苛立ちを煽った。
ローウェルは手を振りかぶって、彼へ向かって下ろした。
しかし、彼は笑顔のまま後方へ飛んで、教卓に着地する。
ローウェルの手は大きく空振りする。まるでそれを嘲笑うように、
彼は口元を歪める。
「あはは、暴力的な『人』だね〜」
茶髪の彼は、わざと『人』にアクセントを置いて、
盛大にローウェルを皮肉った。
優し気に見えて、着実に心を抉るやり方はえげつない。
にこりと笑顔を作るが、血のようなドス黒い紅の瞳は笑っていない。
M字を描く前髪は綺麗だが、長いのでミステリアスな印象をより強くする。
「イツキ・キャシディリア。」
先生が、キャシディリアさんの肩に手を置いた。
彼は不服そうにポケットに両手尾突っ込み、黙りこくって席に着いた。
彼らに面識があるのか、常識を思い出したのか。
後者の可能性は低いと思われるが……。
「彼ら4人は、同じ条件で受験し、そして優秀な成績を勝ち取っています。
異論があるならば休み時間の時に私が聞きます。皆さん、
席に着いてください。イツキ・キャシディリア、ツバサ・カメリア、
クレア・セレナイト。そして…………ユキト・アイルノエル。
あとで、職員室横の空き教室に来なさい。」
急に話を畳んだマオに文句があるのか、ローウェルは一瞬口を開きかけた。
しかし、彼の「授業を始めます。」の凛とした声に負け、
渋々と言った様子で席に着いた。
ローウェルさんの方を見ると、まるで親でも殺されたのかと心配になるほどの
深い憎悪の瞳が、俺を貫いている。
ユキト・アイルノエルはそっと視線を逸らし、窓の外を覗く。
彼らがどんな剣呑な思いをしていても、空は変わらず、青く美しく、
輝いていた。
コツコツ書いていきたいと思っています(笑)
あ、後書きなので、本文の内容話します。ご注意。
ユキト君、カッコいいですよね!私の推しです!
白髪でケモミミで、メッシュで青眼。私の好み全部詰めです。すみません。
お察しの通り、次回、先生に集合かけられて4人が集まります。