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おねショタ革命’28

「あー死ぬほど熱かった、ってとっくの昔に死んでるか。もーあんな思い二度としたくないわ」

「神様、お見事でした」


 空に戻るや否や、少年が私を出迎えた。

 約二年見続けた、コウモリの脅威からようやく脱せられた地上の集落に、少年が目を向ける。そして、

「まさかセントールを倒し、村の人間どもを本当に救ってしまうとは」

「任せなさい、なんてね。私もよくできたもんだな、って自画自賛してるよ」

 私が冗談を混ぜつつ胸を張って見せると、少年は姿勢を正し、

「神様。このミカエル、神様を見くびっていました。お許しください」

 と、私に向かって(こうべ)を垂れた。


「どうしたの急に」

「僕はもう人間を救うなんて無理だろう、と諦めていました。そして神を捨てた愚かな人間に手を差し伸べる必要なんてない、などとも思っていました。ですが、人間の(ため)にとしゃにむに戦う神様のお姿と、その神様を一心に願う人間たちを目にし、救えるかもしれないと思い直したのです」

「えっ。まあ、諦めていたのは分かってたけど」

「神様なら、人間を正しい道へと導けるかもしれません。その道は辛くて険しい道のりになりますが、このミカエル、神様が歩まれると言うのであれば共に歩みましょう」


 なんか少年がかしずいて、私に忠誠を誓い始めた。

 うん、まあ、悪い気はしないが、ずしりとした重圧を両肩に感じた。神様になるんだ、なんて地上にいた時は意気込んでいたけど、改めて考えると神様になれる自信なんてある訳がない。

 少年が改まり、喜ぶべき事なんだけど、失望されずに務まるかしら。そうそう、ジャンヌにヘーデルにイーデンの三人だけど、魔物に襲われることなく無事集落に帰った。と言うより、村に帰るまで見届けるよう私が少年に神様として命じ、魔物に襲われるようだったら助けてやるように、とも命じた。

 あの三人が帰り道で命を落としたら元も子もない。三人には、私がセントールを打ち倒し、コウモリの巣を燃やしたことを証言するメッセンジャーになってもらわねばいけないのである。


「ねえミカエル君、今さらなんだけど、君はセントールと戦うことできたの?」

「クドラクやバーゲスト程度ならば苦もありませんが、あれ程のモンスターとなると、僕の手には負えないですね」

「そっか。ってことは、またああいうのが現れたら、私が戦わなきゃいけないってことか」

「もっとも、僕は神様の(しもべ)ですから、お命じになられるのであれば戦いますが、期待しないでください」


 ふと私は不安を抱いた。あれ程の奇跡を、また起こせるだろうか、と。

 初め私は男たちの願いを(かな)え、ザックスとして地上に現れた。でも、あの時はセントールに貫かれ、あっけなく命を落とした。対して二度目のジャンヌのとき、私は雷に撃たれ、(やり)に貫かれたにも係わらず、生きていられたどころかセントールまでやっつけた。

 一度目と二度目を比較すると、ジャンヌが掛け値なしに特別であったか分かる。あの子一人が願うだけで男たちの願い数十人分に匹敵し、しかも、あの子の願いは私に底知れぬ力を与えた。あの子が追いかけてくれなかったら、私はセントールに勝てなかっただろう。

 しかし、ジャンヌは人の子。いつかは死ぬし、不慮の事故や病気で亡くなるかもしれない。私が神様になるなら、ジャンヌに頼らない奇跡を探さなければならない。

 少年は「多数が同じ(おも)いを願っていたとき、その想いを具現化することができる」と言っていた。つまり、百や千を超える人々に、私を願わさせねばならない。今のような奇跡を起こすには、数え切れない人々に私を信仰させねばならない。

 神様になるって大変だなぁ。返す返すも私に務まるだろうか。


 しっかし、戦いの最中は興奮してたから忘れていたけど、よくもあんな真似をできたものである。

 我ながら信じられない、自分の身を燃やす、なんて。わたし前世では、火に一瞬でも触ることができないくらいビビりのヘタレだったはずなのだが。

 無我夢中だと何でもできてしまうものである。それと予定通りにはいかないものだ。当初のプランでは、さっさと魔法で巣をセントールごと燃やして奇跡の終了時間を迎えるはずだった。それがセントールと戦い、随分と泥くさい勝利となったものである。

 雷に二度も撃たれ、何度心が折れたか分からない。とは言え、三人には強烈な印象を残せただろう。きっとあの三人は私の活躍を村の人たちに伝えてくれるはず。大変だったけど、これ以上とない成果になったのでは。


「そう言えばミカエル君さ」

「はい。なんでしょう?」


 さて、()いておかねばならない。私が死力を尽くして倒した、ある意味で通じ合えた魔物のこと。知らないままで済ませるのはあんまりである。

 長く地上を見ている少年なら知っているかもしれない。(ふく)(しゅう)をくじいた責務として私は尋ねる。


「セントールが戦っている最中に、“使徒(バラモン)”とか“世界観測委員会”とか言ってたんだけど、何のことか分かる?」

「ああ、それは……気が触れていたのではないでしょうか」

「気が触れていた? ジャンヌじゃないのに?」

「はい。下手に知性を持つモンスターは、そういった妄執に()りつかれていることがしばしばあるのですよ。神様、モンスターの戯言(ざれごと)など気になさらない方がいいですよ」


 うーん、怪しい。しゃべる少年は落ち着いて見えるけど、目がすいすいと泳いでいる。

 なんでごまかすのだろう。と言うか、セントールは私の顔を見て日本語を話し、あれに私は心底おどろかされたものだった。

 この未来に日本語を話し、コウモリを育てる知識を持ち、人に絶望する魔物。セントールは、たぶん私なんかよりずっと頭が良く、そして何か、深い悲しみを負った、本当なら救わなきゃいけなかったんじゃないか、そう同情してしまうような魔物であった。

 確か「元に戻せ」とか「弄ばれた」とか言っていた。元は人間だったとも言っていた。そして、どこか救いを求めているようだった。全ての人間を滅ぼす、そう思い至ってしまうような出来事が、過去にあったのではないか。

 妄言と切り捨ててしまってはセントールが浮かばれない。だから私は不服な顔を浮かべ、話を流そうとする少年をじっと見つめることにする。


「か、神様、そのジトッとした目はやめてください。心苦しいですから」


 やめて欲しくば真実を吐きなさい。神様に隠し事は許しません。


「分かりました。観念致します。ですが」

「ですが?」

「教える訳にはいきません。神様はまだ、知らない方がいいのです」

「は? なにそれ、秘密なの?」

「申し訳ありません。いつか時期が来たら、僕の方から話します。今はどうかこの事を忘れ、人間から(あが)められるよう()(きょう)してください」


 少年は固く答えを拒んだ。

 ああそうですか。って、ふてくされて見せるけど、少年のことだ、どうせ天使の上司から禁じられているのだろう。

 しかし悔しい。思い返せば少年にはひどい目に遭わされた。生も死もないから関係ない、予行演習、なんて言って股に変なモノを付けられた挙句に殺された。

 私の心と体を弄びやがって。お仕置きせねばなるまい。私が顔を、

「か、神様?」

「…………」

 ブスッとさせたまま少年に歩み寄る。

 そして仁王立ちし、見下ろす少年はちょっとおびえている。そんな少年に私は両腕を広げ、

「え、か、神様!?」

「…………」

 包むように抱き締めた。

 頭もなでてやる。一度目の地上も二度目の地上も援護してくれた。感謝は示さねばなるまい。


「か、神様。僕が子供みたいな外見だからって、子供あつかいしないでください。僕の方が、ずっと早くに生まれてるんですよ……」

「いいからさせなさい。私は怒っているの。だから、私の気が済むまでさせなさい」

「うう、かみさまぁ。その大きな胸を押し付けるのはやめてください。気持ちが、変になっちゃいます……」


 まさにゆでだこ。耳まで真っ赤に染まっていた。

 年下って、こんなにも可愛いのか。やばい、これははまっちゃいそう。もっと悩ませたい、もっともっとイジワルして困ったところを見てみたい。

 私は、目覚めてしまった。いじるなんて、いけないことだって分かってるんだけど、ああ、すっごくしあわせ。


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