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神様はチュウニビョー

 私は二度目の地上に、前世の姿で降り立った。

 前世の外見を、私はジャンヌと共に創造した。それでジャンヌは(おも)い通りに願い、無事余計なモノを付けずに済んだのだが、恥ずかしいことに素っ裸で現れてしまった。しかも、集落のど真ん中で。

 なぜ裸なのか。これは私が服にまで考えが及ばなかったからである。私は急いで記憶を掘り起こし、集落のどこに私が着れそうな服があったか思い出す。そして、思い出した私は、一直線にそこへダッシュし、慌てて服に首を突っ込んだ。

 服の持ち主は怒らなかった。というより、素っ裸の私が突如として現れたためにきょとんとしていた。前世じゃなくて本当に良かった、もしも前世だったなら世間的に抹殺だっただろう。

 私でも握れそうな小ぶりの剣も拝借した。そして私は、北の山へと駆け出した。


(神様、急いでください)

(ミカエル君、この体どのくらいもちそう?)

(猶予は七時間、といったところでしょうか)

(よかった。案外もつね)

(はい。あの子はシャーマンとして優れた素質があるのでしょう、その願う力は常人にして二十は下らないかと思われます。ですが、それでも一人の願いです)

(わかった)


 私の体は奇跡である。おさらいになるが、奇跡は人々の願いを基とするため、ジャンヌ一人の願いではいつまで()つか不安だったが、七時間と聞いてほっとした。

 さて、タイムリミットはいま聞いたとおり七時間。それまでに山の中腹に到達し、そこに巣食うコウモリを絶やさなければならない。前回が六時間くらいで着き、付いて来た男たちにペースを合わせていたから、走り続ければ五時間くらいで巣に着くだろう。

 迷う心配についてはあまりしていない。ザックスという男、コウモリ討伐にあたって巣への目印をいくつも付けており、前回はそれに沿った形で進んだため迷うことなく巣に着いている。それに、空から私を見ている少年もいる。ルートから外れた場合は教えてくれるだろう。

 私が望む北の空より、翼を広げる二羽のコウモリが現れた。村に向かっていたら、と懸念したが、走る私へと迫って来ていて、

(神様)

「うん。邪魔よ!」

 まずは襲い掛かる一羽のコウモリを、私は走りながら切り伏せた。


「そこぉっ!」


 もう一羽も、私は返す刀で斬り付ける。

 難なく二羽を倒した私。この体は姿こそ死ぬ前の前世だが、中身はとてつもなくハイスペックである。私は私自身が体験した勇者ザックスの(すさ)まじい強さも、ジャンヌと共に創造した。

 おかげで疲れ知らずに走れるうえ、何の問題もなく戦える。まさに死んだ体験をしたけれど、あれがあってこそ実現できたと言えよう。少年には感謝しなければ。死んだときの痛みの恨みは、絶対に忘れないけどね。


(神様、第二波です! バーゲストもいます!)

(りょーかい)


 続いて空に三羽のコウモリと、地上に二匹の黒い犬が現れた。

 まずは黒い犬が、鋭い牙を剥き出しにして私に迫る。空のコウモリは、私が犬に負けてくたばるのを待っているのか、宙を(せわ)しなく飛び交っている。

 お生憎(あいにく)様、まったく負ける気がしない。跳びかかる犬の一匹を軽く切り伏せ、それを見たもう一匹がたじろぎ、ブレーキをかけたように足を止める。

 鋭い()をして(うな)るもう一匹。これと空のコウモリを私は無視し、山の方へ駆け出した。立ち止まって戦いたいところだが、残念ながら一匹一匹を相手にしているほど暇ではない。時間は限られているのである。


(神様、数が増えています!)


 走り続ける私に、少年が注意を喚起した。

 後ろに目を向けると、犬に加えて無数のコウモリが私を追いかけている。何羽いるだろうか、コウモリはいつの間にか数を増やしており、もう片手では数え切れないほどのコウモリが、バサバサと翼を忙しくはためかせ、走る私を狙っていた。

 魔物に追いかけ回される人間の図。少年の目、いや、誰の目にも窮地に見えるのかもしれない。でも、私には勝算があり、

「さあ、かかってきなさい!」

 立ち止まって振り返った私が、犬と無数のコウモリに向かって気炎を上げた。


(か、神様! あの数を相手にする気ですか!?)

(心配しないで、一網打尽にする秘策があるの)


 初めてだが、大丈夫、できる。この(ため)に私は村を出てすぐ、スケールを小さくした予行をした。

 剣を真上へと掲げた私の右脚に、斬らなかった犬の一匹が()み付く。これを私が歯を食いしばって耐える。

 無数のコウモリが私に群がる。視界が瞬く間にふさがれる。だけど、

(神様!)

 私が唱える、勝利の呪文――。


――地の底より湧き出づる(ほのお)よ、我に熱き怒りを示せ! 魔人の炎(イフリートブレイズ)!――


 上へと掲げた剣の先から巻き起こる、熱くて激しい炎の渦。

 うまくいった、なんてほっとしている場合じゃない。私は(おこ)した炎の渦を、自分の体を避けるようにして放射した。

 燃え盛る炎が、私を中心にして渦を巻き、噛みつく犬や群がるコウモリを焼き尽くす。こうして私はイヌとコウモリを一掃した。どうしてこんな真似ができるのか。それはやはりジャンヌと共に創造したからだ。私は私自身で火を操れる、前世の漫画やテレビゲームなどで見た魔法のイメージを、ジャンヌの想いに刷り込んでいた。

 村を出てすぐ、小さな火を熾す予行をしており、だから火を熾せる自信はあった。はっはっは、これぞ秘策、どうだ魔物め参ったか。


(ふふん、どうミカエル君。今のすっごくカッコよくなかった?)

(返す言葉もありません。まさか神様が、そんなことまでできるようあの子に願わせていたなんて。神様は想像力豊かなようで)

(任せなさい。伊達(だて)にミレニアムを生きちゃいませんから)

(しかし神様)

(なに?)

(なんですか今のイフリートブレイズって。イフリートとはユーラシア大陸の中央あたりに伝わる魔人の名でしたよね? 対してブレイズは欧州と呼ばれた地域の言葉ですし、意味不明です。叫ぶ必要などあったのですか?)

(あるよ。こういうのってさ、名前付けたくなるじゃない?)

(名前? ……別になりませんが。仮に百歩譲って名前を付けたとしても、イフリートブレイズでは語源も何もあったものではないですからねぇ。まあ魔人と炎で言いたいことは何となく分かるのですが、薄っぺらくて全く中身がないですよね)

(うっ!? そ、そう言われると苦しいな……)

(人間が子に名を付けるとき、その言葉の意味を深く考えますよね? そもそも火を熾しているだけなのに名前を付けるセンスが理解できません。その前の怪しいつぶやきもです。神様なら想うだけでできるでしょう? 神様は前世で火を熾すたびに、怪しいつぶやきをぶつぶつと唱え、そして語源も何もあったものではない、ただの勢いに任せた名前を付けては叫んでいたのですか?)

(そんなことしないよ! それじゃただの危ない人じゃない)

(ですよね。ともかくセンスゼロ、いや、マイナスに振り切れてて、名前なんて付けない方がマシです。もし他の天使が聞いていたら腹を抱えて笑い転げてたと思います。僕も本音では笑いとあきれの半々で今のを眺めていましたし。……神様、聞いていたのが僕だけでよかったですね)

(んもう! ミカエル君“魔法”知ってるでしょ? それをイメージしたの!)

(魔法? うーん、僕の知っている魔法とは大きく異なりますが。僕も詳しくは知りませんが、魔法って様々な怪しい素材を調合したり、幾何学模様な陣を描いて悪魔を召喚したりするものではありませんでしたか?)

(いつの時代よ! 私の時代の魔法はこうだったの!)

(こうだったの、と押し通されても。まだ神様の前世の時代をよく分かっておりませんので)

(じゃあ勉強しなさい! なによ、カッコいいと思ったのに、センスゼロなんてバカにしくさって)

(それと神様)

(なに? まだ腐すつもり?)

(今のイフリートブレイズとやらで、一時間ほど猶予が短くなりました。図に乗っている暇はありません。急いでください)

(えっ!? それを先に言いなさいよ!)


 しまった、ついうっかりしていた。

 地上に居られる時間は限られている。だから無尽蔵という訳ではなく、今のは人の身だけでは決して起こせない大技だ。猶予をすり減らしてしまうことは充分に予想できた。

 コウモリの巣に着く前にタイムアップでは、いったい何のために地上に降り立ったのか。タイムリミットは一時間減って六時間。魔法はここぞという時だけに控えておこう。私は慌てて北の山へ駆け出した。


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