久しぶりの依頼人
初めまして!
探偵小説描き始めました。鷹です。
気分で投稿しますので、気に入った方々が見ていただけるとうれしいです。
新潟県N市。
俺が住むこの町は、都会と言えるほど栄えておらず、
田舎と言うほど、廃れてはいない。
少し歩けば、田んぼが広がり、平日の深夜は人並みが消えていく。
そんな町で俺は、生まれ育った。
数年前に行われた大規模な都市改革によって、
市役所、体育館、コンビニなどが入った大型の集合施設もでき、今日のようにイベントが行われるたびに外は騒がしい。
俺は、外から聞こえる快活溢れる声に、気にも留めず、お気に入りのソファーに腰を置き、いつものように自分のデスクに足を乗せる。
長年愛用した、アイマスクを装着し、ゆっくりと目を閉じる。
決して眠いから目を閉じたわけではない。
むしろ、目は冴えている。
何せ、数分前にエナジー飲料を丸々一本飲んだばかりだからだ。
なぜ目を閉じたのか?
俺が今から見るのは夢ではない。妄想だ。
言えば、これは現実逃避なわけだ。
「すみません!」
妄想の中で、女性の声が聞こえる。
かなりの再現度だ。
俺は、遂に頭の中で人の声を再生できるほど、心を病んでしまったに違いない。
一度ならず、二度、三度とその声は聞こえる。
「よし!」の掛け声と共に、俺はアイマスクを外して立ち上がる。
「病院に行こう」
病院に行けばきっと鬱病と診断されるだろう。
何せ、女の声は今でも聞こえる。ノイローゼになりそうだ。
次の瞬間、今まで聞いたことのない声量の「すいません!!」と、扉の叩く音が部屋中に響き渡った。
「すいません!誰かいませんか?」
俺はその瞬間、理解した。
その声の主こそ、半月ぶりの客。
つまり依頼人である。
バサバサの髪にヨレタYシャツで接客するわけにも行かず、すぐに身だしなみを整えようと動き出す。
その前に一言。
「少しお待ちください」と声をかけることも忘れてはいない。
黒のスーツに赤いネクタイ、オールバックに伊達眼鏡。これが、俺の正装である。
ネクタイを締め上げ、大きく深呼吸した俺はその扉を開けた。
突っ立つ女性に向かって、満遍の笑みで言う。
「お待たせしました。ようこそ小野寺探偵事務所に」
俺の名前は小野寺皐月。
この町を愛し、この町すべての人の力となるべく働く
探偵である。