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Co「◾️◾️P◾️」ette  作者: 西木 草成
第二章 青の色
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第80話 名前の色

以前書いていたものに少しだけ手を加えたものです。よろしくお願いします。

 イニティウム再興までの道のりは長い。隣町に避難した住民はすでに戻ってきてはいるが、その破壊し尽くされた街を見て呆然としているというのが現状だ。


 住民の中にはこんな街に住むよりも、違う街に移ろうという考えの人もいる。


 しかし私はここから離れるつもりは毛頭ない。ここは先輩たちが文字通り命を懸けて守った場所だ。どんなに街を壊されていようとも、どんなに更地と化していようとも、私は同じギルド職員として亡くなったリーフェ先輩のために、ギルド長だったガルシアさんのためにこの街を再興させてみせる。


「メルトちゃん、こっちはいいから。あなたは少し休んだほうがいいわよ」


「いいえ、マーリャさんこそ。もうお歳なんですから」


「まぁ、私はまだまだ現役よ。なら、ここの資材を運んだら一緒に休みましょうね」


「わかりました、美味しいお茶を入れてあげますね」


 現在、この街では老若男女様々な人間が街の再興のために働いている。この街には土木関係で使える魔術を持っている人が少ない。よって、資材を運んだり、つなぎ合わせたりしての再興しかないのだ。


「にしてもメルト、あなたこの街に来て早々ギルドをやり始めて、それに街の再興にも手伝って、このままじゃあんた体を壊しちゃうよ」


「大丈夫よアリシャ、ギルドはもともと私の仕事だし、ギルド職員として街のことを手伝うのは当然なんだから」


 ギルドはこの街に戻ってきて一番最初に元に戻した。とは言っても建物はボロボロだったし、使える資料もほとんど残ってない状態だったけどそれでも一緒に逃げてきた冒険者の人たちが手伝ったりしてくれたおかげで、建物なんかはなくても青空ギルドという形で再開することができた。


「にしてもあの王都騎士団の人たちは手伝ってくれる気はあるのかね。なんだかジロジロ見られてる気がして気持ち悪いわ」


「……」


 ふと周りを見ると、王都騎士団の人がまるで監視をするかのようにしてあたりをうろうろしている。それもそのはずだ、私たちはショウさんを助けるために一度王都の騎士たちと戦ったのだ。


 それでも、私たちを捕らえずに自由にさせているのは何かしらの意図があってのことなのだろうけど、一向に動かない騎士団を見てまた気味が悪いと思うのも事実です。


「……大丈夫ですよ、それではこの資材を運んでちゃっちゃっと休憩しましょ。マーリャさん」


「……ハァ、この街に戻ってきた時メルトちゃんのことが心配で心配でしょうがなかったけど、本当に生きててくれてよかったわ。最後まで残って戦ってくれたリーフェさんとショウくんに感謝ね」


 リーフェ先輩とショウさんの名前を聞いて少し顔が曇る。


 優しかったリーフェ先輩の葬儀は、先輩の住む街外れの家で丁重に行われた。街の復興もまだほとんどしていなかった状態であったのにも関わらず、リーフェ先輩を弔うために大勢の人が葬儀で涙を流していたのを私はよく覚えている。


 そしてショウさん。あの処刑場から大勢の王都騎士団の人たちを相手にして、私たちも彼を逃すために奮戦して、そしてなぜかそこの隊長さんを誘拐して逃げたけれども、今ショウさんはどこにいるのだろうか。


 けど約束したのだ、生きてここにまた戻ってくると、そのためにもここの街並みは元に戻しておかなくてはならない。いつも通りの私でいなければならない。


 そう決めたのだ。


「メルト……あんたなんか変わった?」


「ん? 何も変わってないよ。それよりもアリシャ、また今度飲みに行こうね」


「ふぅ〜ん、ならいいけど。それじゃ、また色々聞き出すとしますかねぇ」


 また意地の悪い顔をしてニタついている、悪い白ウサギが一匹いますが、何も変わっていない風景はまだここにはある。


 そう思ったその時だ。


 奥の方で王都騎士団の人たちが何やら騒がしくしている。何やら揉めている様子だけど、それでも何かがこちらに向かって勢いよくこちらに走ってくる姿が確認できた。


「あれ、なんか馬車が停まってない?」


「あら、貴族の馬車かしらねぇ」


 見ると、気品のある馬車が一台、王都騎士団の人に止められて何か話をしている。そしてしばらくすると馬車は街中を進み、そして私たちの前に停まった。


 そしてその馬車を私はよく知っていた。


「メルトっ!」


「え、エギルお兄様っ……どうしてこのような場所に」


 馬車の中から出てきたのは、貴族が着込む礼服に身を包み腰に剣を差した銀狼の青年。三年前、家の反対を押し切り出て行った家に置いていった見間違えようのない兄様の姿だ

 

そして馬車から駆け下り、私の姿を見るとそのままの勢いで私に思いっきり抱きつく。


「メルト……っ、よかった……お前が無事でっ」


「エギルお兄様……どうしてここに……」


 懐かしいお兄様の匂い、その体温に思わず安心感に包まれる。しかし、わからない、どうしてお兄様がここにいるのか。


「どうしてって……お前のことが心配できたのだろうっ! お前の勤め先で街が魔物に襲われたと聞いて慌てて馬車を飛ばして来たのだぞっ!」


 私を体から離し、必死の形相で怒っている兄様の様子から本気で心配されたのだということがわかる。家を飛び出して三年、家族との縁は切れたものと考えていたけれど、まだ私は心配されていた。


「さぁ、帰ろう。お父様も心配されている。こんな終わった場所に長く留まる必要はない」


「え、待って……っ。待ってくださいっ!」


 突然、自分の手を引いて馬車の中に乗り込ませようとしたエギルの手を力強く振りほどく。


 今帰るわけにはいかない、私にはやるべきことがある。


「メルト、どうして……」


「エギルお兄様、私はここを離れるわけにはいきません。私にはまだやるべきことが残っているんです」


 両手を前に組み、まっすぐお兄様の銀色の目を見る。その手は微かに震えていた。ふと、自分が家を出て行くということを父親に話した時の状況が頭の中で思い返される。


「メルト、お前はギルド職員である前に貴族なんだぞっ! 貴族には貴族の務めというものがあるっ! こんな田舎街の再興など貴族の仕事ではないっ!」


「いいえ、私は家に戻りませんっ! 私の帰る場所は『グラウス』の名前を背負う場所ではありませんっ! ギルド受付嬢『メルト=クラーク』というこの街に尽くす義務を持った人間の帰る場所ですっ!」


 自分でも驚くような声が出ていた。アリシャやマーニャさんは驚いたようにその様子を見ている。そして、お兄様と自分はしばらくにらみ合っていたが、やがてお兄様は諦めたかのように馬車の方へと向き直った。


「三ヶ月だ。いいか、三ヶ月でこの街を再興させてみろ。もしできなかったら、お前を家に連れ戻す。いいな」


「……はいっ!」


 三ヶ月、あまりにも無理難題だ。しかしやらなくてはならない。命をかけて先輩たちが守ったこの街を完全にもとに戻し、先輩の意思を受け継ぐのだと。守るのだと。


「無理難題なのは承知だ。だがクラークの名前を背負うのならやって見せろ。お父様には報告しておく……期待しているぞ」


 お兄様は馬車の中に乗り込むとそのまま走らせて街を離れていった。その様子をぼんやりと眺めた後、後ろで同じように呆然としているアリシャとマーニャさんに向き直る。


「作業、始めましょうか」


「ちょっと待ってメルト、聞きたいこと山ほどあるんだけど。何? あなた貴族の娘だったの」


「アリシャ、ゴメンね黙ってて」


 自分が貴族の娘だということは、ギルド職員以外知らない内容だ。当然アリシャやマーニャさんが知っている内容ではない。


「別にいいんだけど……まぁ、それはあんたに酒を飲ませてからたっぷり聞くとして……何、今度から敬語を使った方がよろしいでしょうか?」


「怒るよ」


「冗談だって、別にあんた貴族だろうと王族だろうと私の友達に違いはないんだからさ」


「……ありがとう」


 アリシャがそばに寄ってきて、私の頭を撫でる。頭に伝わる体温で思わず涙がこぼれそうになるが、ここで泣いてしまったらダメなような気がする。私が泣いていいのはもっと嬉しいことがあった時だ。


 私は、リーフェ先輩の守ったこの街を、そしていずれ帰ってくるショウさんのために私はここにいて街を立て直さなくてはならないんだから。


「あ、ところでメルト」


「ん? なぁに?」


「あんたのお兄さん、結構イケメンだったけど……今度紹介してくんない?」


 どうしよう……アリシャがお義姉さんになったら。


一人でも多くの読者が増えますように、一つでも多くの感想がもらえますように。

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