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Co「◾️◾️P◾️」ette  作者: 西木 草成
第一章 赤の色
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第52話 奮戦の色

 パレットソードを掲げた翔の姿に、周囲の冒険者から歓声が上がる。突然の出来事に、騎士団は頭の理解が追いついていないのか剣を掲げ歓声を浴びている翔の姿を見ているしかない。


 その手には、確かに何も握られていなかった。しかし、処刑人の斧を斬り飛ばしたのは確かに、彼の持つ純白の刀身の一振りの剣である。


「行くぞお前らっ!」


 歓声の中で、まるでそれが合図だったかのように冒険者の一人が他の冒険者を先導し、木のフェンスを破壊し始め翔の周りを守るように取り囲んでゆく。


「ショウっ、やっぱりアンタこんなところで死ぬには惜しい奴だぜっ!」


「ラルク……」


 翔の隣で槍を構えて立つのは、イニティウム以来の再会になるラルク。そして、そのそばには檻越しで互いに涙を流し再会を喜んだ一人の女性。


「ショウさん。信じてましたよ、私」


「……えぇ。この判断をできたのは、メルトさん。あなたのおかげです」


 周囲では既に騎士団と冒険者の衝突が始まっている。その中で翔はメルトを庇うように剣を構え直し、この騒ぎの突破口を見つけようと周囲を見渡す。四方が閉ざされた城壁で囲まれた構造の中庭だが、唯一外に出るための北の門だけが閉ざされておらず開城しているのが見える。


 外に出るためには、あの門が閉ざされないよう立ち回るしかこの状況で全員が生き残る方法はない。


「ラルク、北を頼む。俺はメルトさんを守りながら他の冒険者を先導する」


「よっしゃっ、任せろっ!」


 ラルクが翔のそばを離れ北に向かって駆け出してゆく。戦況は、奇襲が成功した冒険者にやや軍配が上がっているが、冒険者は戦闘のプロではあってもその相手は人ではなく魔物である。故に、集団戦に対しては強いが一対一での戦闘では対人戦のプロである騎士団にどうしても有利に働いてしまう。


 現に、この騎士団を動かしているレギナ。その指示は冒険者を孤立させ対処させるように指示を飛ばしている。


「メルトさん。絶対に俺から離れないで」


 メルトの手をとり片手では剣を逆手に構え完全に守りの姿勢に入った翔。時折聞こえる魔術の炸裂音と剣と剣がぶつかり合う鉄の中を掻い潜り非戦闘員であるメルトをまず第一に安全な場所へと避難させる。


「全員北へっ! 無理して戦わず退避しながら応戦をっ!」


 メルトが通りかかる冒険者に声をかけながら進んでゆく。そんな彼女に近づこうとする騎士団相手に翔はパレットソードを振り騎士団を寄せ付けないように立ち回る。


『今道四季流 剣技一刀<秋> 村雨返し』


 鎧を着込んだ騎士団相手に斬撃はほとんど有効打になっていない。しかし、鎧の隙間を狙った斬撃は少なくとも相手を怯ませるには十分な攻撃手段になっている。


「くそっ! 早く囚人を捕まえろっ!」


 騎士団の焦りからか、そんな悲鳴も飛び交うようになってきた。他の冒険者たちも北へと移動をしながら少しずつではあるが外へと移動する流れにはなってきている。


『今道四季流 剣技一刀<秋> 紅葉裂開』


 騎士団の構える盾を破壊し、周囲を取り囲まれないように立ち回る翔。移動を重ねながら、視線の端は騎士団に指示を飛ばしているレギナの方へと向いている。


「ラルクさんがっ!」


「……っ!」


 メルトの声に、北で扉の防衛を任せていたラルクの方へと翔は向く。そこには既に数人の騎士団に囲まれ、扉に近づけまいと動いているラルクの姿があったが、次の瞬間槍を叩き落とされ、武器を失い魔術で応戦している彼の姿があった。


「メルトさん、このまま扉に向かって走りますよっ!」


「はいっ、えっ? きゃっ!」


 全身に魔力を流し、身体強化術を施す翔。メルトを抱き抱え、一気に両足で北の城門に向け駆け出す翔。その進行阻もうと騎士団が翔を囲い込もうと動き出すが、それをギリギリで躱し一気にラルクのいる場所に向けて距離縮めてゆく。


「飛びますよっ!」


「はいっ!」


 翔は両足に力を込め、一気に飛び上がる。足元を騎士団が通り過ぎ、ラルクが応戦する防衛ラインの内側に入り込みメルトを地面に下ろしながらラルクと背中合わせになり騎士団と向き合いながらパレットソードを構える。


「大丈夫かっ!」


「大丈夫に見えるかよっ、目ん玉腐ってんのかっ!?」


「だよなっ。助太刀するぞっ」


 剣がラルクに向けて振りかざされる。その重厚な一撃を翔が前に出て受け止める。その隙にラルクは落とした槍を拾い上げ、騎士団が翔の間合いに入り込ませないように牽制する。


 互いに背中合わせになるラルクと翔。ラルクの広げた間合いに入り込むように翔が身を屈ませ、渾身の一撃を騎士団に向けて振るう、普通の剣では折れてしまうような出鱈目な斬撃を騎士団に向けて放つ翔だが、彼の手にしているパレットソードはその程度の攻撃で折れるほど柔な作りをしていない。


 斬撃を喰らった騎士はその体を大きく浮かび上がらせ空中で一回転しながら鉄がグシャリと潰れるような音を立てて地面に投げ出される。


「まだまだいけるよなっ!」


「当然っ!」


 ラルクが地面に手を置き、魔力を放出させる。それは黄色い放電となり地面に走った電気は鉄のフルプレートで覆われた騎士団を感電させその動きを止める。その隙に一気に間合いを詰める翔。


『今道四季流 剣技一刀<冬> 時雨』


 囲まれた騎士団全員に叩き込まれる斬撃、その攻撃の一撃一撃が必殺、フルプレートで全身を覆われていたとしても貫通するで在ろうその衝撃に、地面に投げ飛ばされた騎士団はその痛みに体を喘がせながら立ち上がれないでいた。


「ショウ、今のうちだっ! 逃げるぞっ!」


「あぁっ」


 冒険者のほとんどは既に城門の外にいる。退路は開かれている、全員が命懸けで作り出した退路だ、ここで逃げない手はない。しかし、それを阻むかのような巨大な音が城門で響き渡り、その頭上から鉄の扉が徐々に下がってゆく。


「ショウ、急げっ!」


「後から追うっ! お前らは先に行っててくれっ!」


 翔の視線の先、そこには一人も逃さんと鬼の形相で迫る騎士団の姿がある。誰かが限界まで防衛しなくては、全員で脱出することは不可能である。


「行けっ! 早くっ!」


「わかったっ、絶対に後からついてこいよっ!」


 翔に背を向け城門の外へと駆け出すラルク。しかし、たった一人。翔の元を離れない人物がいた。


「メルトさん。あなたも早くっ!」


「私はもう逃げませんっ、ショウさんと一緒に最後まで戦いますっ」


 そう言いながら、足元に落ちている騎士団の剣を両手で持ち上げ構えるメルト。普段のギルドの受付嬢の姿からは想像できないほどに凛々しい、だがその両手は剣の重さからか、恐怖からか小刻みに震えている。


「メルトさん、前衛は俺が。後ろは任せます」


「わかりました。でも、こんな状況でも嬉しいんです」


「……それは」


「不謹慎ですよね。わかってます、でも。私、最後まであの場に居られなかったから」


 メルトの表情はひどく晴れやかだ。その佇まいはひどく弱々しく、頼りなさげであるのに、翔にとってこれほど頼もしい味方はいないと思った。彼女が背中にいるのであれば、どんな強敵ですら斬り伏せることができるだろう。


 故に、これから自分の取らなくてはならない行動に胸が締め付けられる思いだった。


「少しずつ下がりますよ、一歩ずつ間合いをとって」


 城門がもう少しで閉ざされる。そうなれば、外に出る手段はもうない。騎士団も翔の動きを知っているからか、一気に距離を詰めてこうとはしない。このまま行けば城門の扉が騎士団の進行を阻んでくれる。


 人一人が通れる隙間しかないほどにまで、城門の扉が閉ざされようとした。まさにその瞬間だった。


「……ごめんなさい」


「え?」


 次の瞬間、メルトの体を城門の外へと突き飛ばす翔。何が起こったか理解できていないメルトは自分を突き飛ばした翔の背中が閉ざされた扉の向こう側に消えてゆくのを眺めるしかなかった。


 完全に閉ざされた扉、退路はない。その内側で王都騎士団に囲まれる翔、逃げる手段を自ら手放した彼に対し騎士団の中にも微かにどよめきが起こっている。


 翔の思惑、それは視線の先にいる人物が関係していた。


 話は、昨日の夜に遡る。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「……話を聞く」


 監獄の中、檻を挟んで向かい合うアランと翔。彼が持ってきた条件は翔の想像を絶するものだった。


「王都騎士団九番隊隊長、レギナ=スペルビアを誘拐してほしい」


「……は?」


「それができたら、貴様の仲間の命と、今後のイニティウムの復興は保障してやる」


「いや、ちょっと待ってほしい……、なぜ?」


 翔の疑問は尤もだった。アランの言うことはいわば騎士団の隊長、すなわち上司を誘拐しろと言うことと同義だからである。普通に考えてそのようなことをしなければならない理由など思いつくはずもない。しかし、翔のその疑問に対し、アランは何も答えない。


「理由は貴様が知る必要はない。やるか、やらないか。どっちかだ」


「……もし。仮に、本当に誘拐することができたら。メルトさんや他の冒険者の命は補償するんだな?」


「あぁ。約束しよう、そのように手を回してやる。それでやるのか?」


 返答は決まっている。元より、翔に選択肢はない。


「……わかった。やる、その代わり。約束を反故にすることがあれば、その首明日には繋がってないもの思え」


「……それでは明日、貴様の動きに期待するぞ。剣は外に出しといてやる」


 アランは最後の最後まで無機質な表情を浮かべ、翔の元を去って行った。アランが約束を守る保障はどこにもない。だが、それでも自分を守ろうとして動く人々が確実にいると言うこと、そしてその人たちを守るために自分が動かなくてはならないという事実に変わりはない。


「さて、面倒なことになっちまったな? え?」


「……」


 翔の言葉を代弁するかのように、サリーが愚痴をこぼす。現状、ただでさえ囚われのみであるのにやらなくてはならないことが一気に増えてしまった。全てをこなすためには、アランの動きが一番重要になってくる。


 そして最大の問題で在ろう、レギナ=スペルビアの誘拐。彼女と戦った時の記憶は断片的に残っているが、サリーの力を持ってしても一筋縄ではいかない人物だというのだけは覚えている。


 そんな人物をどうやって誘拐するか。


「そこで、俺の出番ってわけ。だろ?」


「……そうなるよな……」


 得意げな顔で自分を指差すサリーに同意するしかない翔。方法は一つしかない、ただでさえ勝算の低い戦いになる、であればこそ人智を超えた力は否応がなしでも必要になる。


 尤も、それを使いこなせればの話だが。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


『……炎下統一』


 翔のパレットソードを握る手に、炎が宿る。あの時と同じ感覚、血液が逆流するような巨大な怒りの感情が心の底から湧き上がる。全身が炎で包まれ、塞がった傷口から炎が噴き出る。


 そして、炎に包まれ真っ赤に染まったパレットソードはその熱の中で姿を変え、日本刀へと姿を変える。


 あの時の光景が騎士団の中で蘇る。同時に、それを見ていたレギナの精悍とした表情が確実に険しくなる。


『さぁ、檻の中で散々暇を持てはやしてたんだ。ひと暴れしてやろうぜっ!』


「……怒りには飲まれない」


 脳内に響くサリーの言葉を否定するように、静かに翔が自分を言い聞かせるように唱える。


 二度と、怒りに飲まれないと。


 

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